『ギャング・オブ・アメリカ』からあふれる懐かしのロマン 全編に響く“カイテルASMR”も

 『徳川埋蔵金』……『ギャング・オブ・アメリカ』(2021年)は、このロマン溢れるフレーズを思い出す1本だ。

 徳川埋蔵金伝説とは、江戸幕府が最後の最後に、どこかに財産を隠したとされる伝説である。総額は20兆円とも言われ、バラエティ番組で散々に擦られた。絶頂期には1年に1回はTVスペシャルが組まれ、数々の新技術や、時には超能力者まで動員して埋蔵金探しが行われていた時代があったのである。そして毎回「ついに発見か!?」と煽りまくっては、何も見つからないまま終わるのが基本パターンだった。いつものパターンだと分かっていながら、しかしTVでやっているとついつい見てしまう。そういう魔力が徳川埋蔵金伝説にはあった。そして本作にはギャング映画としての魅力はありつつ、同時に徳川埋蔵金番組に近いロマンが籠っている。

 かつてアメリカ黒社会で絶大な権力を持ちつつ、現在ではマイアミで隠遁生活を送るマイヤー・ランスキー(ハーヴェイ・カイテル)。私生活が迷走気味の中年作家、ストーン(サム・ワーシントン)は、ランスキーの自伝を作ることになる。小粋なダイナーで過去を語り始めるランスキー。そしてストーンは幾多の修羅場を乗り切ってきた彼の言葉に、しばしば自分の現状を重ね合わせる。取材は順調に進むかに見えたが、長年にわたってランスキーを追いかけていたFBIが介入してきた。「ランスキーには3億ドルの隠し財産があるはずだ!」かくしてストーンはFBIに言われるまま、3億ドルのありかを聞き出すべく探りを入れ始めるのだが……。

 本作について最初に語るべきはハーヴェイ・カイテルだろう。彼が演じるランスキーは実在の人物であり、『ゴッドファーザー PARTII』(1974年)に登場するハイマン・ロスのモデルとなった黒社会の超大物である。「マーダー・インク(殺人株式会社)」なる暗殺組織を設立する武闘派でありながら(こんな身も蓋もない組織名がありますか?)、数字に滅法強く、暗殺/資金洗浄/ギャンブル運営などで名を馳せた。そしてラッキー・ルチアーノやアル・カポネといった男たちと同じ時代を生きて、数々の犯罪に関わっていながら、時にはアメリカ政府やキューバ政府とも仕事をしたという。日本で言うと、ヤクザというよりフィクサーに近い。しかも『ゴッドファーザー PARTII』ではモデルとなった人物は殺されてしまったが、本人は1983年まで生きていた。

 そして映画の通り、彼の隠し財産は今なお謎のままである。そんな怪人ランスキーを、カイテルは堂々と演じ切っている。しかも物語は彼の語りによる回想形式で進むので、心地よいしゃがれ声が全編に渡って鳴り響き、ほとんどカイテルASMRだ。すっかり丸くなったギャングという設定だが、ここ一番では瞬時に「あ、今すぐ殺されるかも?」レベルまで緊張感を上げてしまうのは、さすが匠の技である。

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