横川良明×佐藤結衣が語る『最愛』と2021年のドラマ 現代が求める本当の“キュン”を探る

『おかえりモネ』と『大豆田とわ子と三人の元夫』

ーー2人の2021年のお気に入りドラマは何でしたか?

横川:僕は『おかえりモネ』(NHK総合)がぶっちぎりの1位でした。朝ドラをあまり観ない僕が、ちゃんと毎話観ることができたのは後にも先にもこれだけだと思います。

佐藤:実は私、朝ドラについてはまだまだ未開拓者でして……。『おかえりモネ』を観ようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

横川:坂口健太郎さんと脚本家の安達奈緒子先生が好きなのでチェックしておこうと思ったのがきっかけです。僕が朝ドラをあまり観ない理由が、そういう作品ばかりではないことはわかっているのですが、戦前から始まる女性の一代記に興味が持てないのとセットの作りが映像的にあまり引き込まれないなというのがあります。でも『おかえりモネ』は一代記ではなく現代の女性を描いている点で身近に感じましたし、特に前半を彩った登米の山々の映像がすごく綺麗だったんです。これは見ごたえがあるなと思ったのが始まりですね。どちらかというと深夜11時くらいにやっているような作風のドラマでしたが、それが僕の好みにすごく合いました。

佐藤:確かに、これまでの実績から番組の枠でドラマのイメージが確立されているところはありますよね。では、『おかえりモネ』は「朝ドラだから」というよりも作品として興味があったということですか。

横川:そうですね、たまたま『おかえりモネ』が朝ドラだっただけで。でも、既存の朝ドラっぽいものを求めていた人には賛否が起きていました。主人公が何かに挑戦して、成長して、故郷に帰るというような、メリハリのあるストーリーを求める人からすると、百音(清原果耶)が故郷で何をやりたいのか共感しづらかったし、気象予報士として最後に何か成し得たわけではないので物足りなかったというのは分からなくはないです。僕は一足飛びで人って成長しないと思うし、必ず全員が何かを成し得るわけではない、そして成し得なければ人生として充実していないわけではないと思ってるタイプだから、気にならなかった。結局は好みだと思いますが、主人公の百音が、自分の心の傷とどう向き合って一歩踏み出していくかが全て描けていたので、素晴らしい作品だったと思います。

佐藤:そう言われると、今からでもアーカイブで見返したくなります!

横川:それと安達先生は、丁寧な心情描写も良いですが、ラブコメを描くのがすごくうまい。「#俺たちの菅波」がネット上で話題になりましたが、『G線上のあなたと私』(TBS系)もラブコメ描写がすごく良かった。もともと月9枠の作品を書かれていたこともあり、爽やかでじれったいキュンの描ける作家だと思います。

ーー佐藤さんの2021年のお気に入りドラマは何でしょう?

佐藤:私は『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)が一番好きでした。坂元裕二さんが描かれる世界観が好きで、ずっと観ていたいなと思ってしまうんですよね。これまでも坂元作品は多くの魅力的な俳優さんが演じられてきましたが、なかでも松たか子さんが出てくるとやっぱり締まるなぁと。

横川:とわ子(松たか子)が本当に素敵な女性なんですよね。最後に松田龍平さんが「大豆田とわ子は最高だ」って言った時に、「最高だ」ってみんなが思ったと思う(笑)。

佐藤:そうなんです(笑)。もちろん3人の元夫の個性が強くて、その部分を面白おかしく見るシーンは多いけど、前提として、とわ子が魅力的じゃないと、あの3人は集まらないよねと。3人が結託するほどの求心力が、とわ子にあるから成立する世界観というか。“くっついた”、“離れた”というような男女の愛を描く作品よりも、もっとゆるくつながっていく集合体としての愛情を描く流れが、時代の空気ともマッチしているのかなとも思います。

横川:僕がすごいなと思ったのが「大豆田とわ子ってどんな人?」って言われると、説明できないんですよ。“勝ち気”とか“強気”とかでもないし、“自分にすごい自信のない”でもない、“立ち向かっていくヒロイン”……? でもないじゃないですか。説明できないから10話全部観てと(笑)。

佐藤:普通の人と言えば普通の人という言い方になりますよね。尖った特徴があるというわけでもないですし、事なかれ主義なところもある。共感性もあるんですけど、確実に魅力はあって。普通の人=つまらない人ではなく、むしろ視聴者の興味を抱くように描き出すのがさすがだなと思います。

横川:とわ子のようなヒロインはなかなか描けないですよね。もしかしたら、野木亜紀子さんの作品にも多い、ヒロインをスーパーウーマンにしないという流れの中の1つなのかもしれないですね。自分にも他者に対してもすごく誠実なヒロインだなと思います。

佐藤:確かに。しっかり者でもありますけど、穴に落ちちゃうし、わかりやすくキュンと心を動かされているシーンもありました。難しいんですよね、あの魅力を一言で表現するのは。でも、それがリアルに人間が誰かを好きになるときの感情に近いようにも思います。ここがこうだから好き、という一言がないところに本当の好きがあるというか。

横川:だからこそ、みんなが好きになるし、ちょっとずつ自分に似ているところを感じられたのかもしれないです。そんな登場人物を描ける台詞の巧さはもちろん、やっぱり坂元さんはすごい作家だなと……でも、坂元さんの作品が分かりにくいと聞くこともあって、何が分かりにくいんだろうなって。どういうドラマなのかと言われると、よくわからないというのはわかる。

佐藤:オンエア中に「どう楽しんでいいかわからない」という声は見かけましたね。確かに日曜劇場のようなスカッとする分かりやすさではない、というのはありますけど(笑)。主人公が何かとてつもなく努力して苦難を乗り越えてという感じではないし、言ってみれば「そんなに何も変わりませんでした」みたいな話ですからね。でも、そこが愛しいっていうか。例えるならのどごしの爽快感とは違う、ずっと口の中で咀嚼して飲み込みたくないな、という美味しさ。それはもう好みではありますよね。好みといえば最近、Netflixで韓国ドラマを見ていて、日本のドラマって割とすぐ立ちはだかる壁が解決されるような印象を持ったんですよね。韓国ドラマを観ていると生き死にがかかるくらいとことん追い詰められるけど、最近の日本のドラマだと敵対していた人もそこまで闇落ちせずに理解を示してくれるというか。基本的に1時間×10話でストーリーのスピードを重視しているからかもしれませんが、この混乱したご時世だからこそ人と人との絆を信じたいという願いがあるのでしょうか。

横川:『TOKYO MER』(TBS系)など最後はみんな良い人なんだなというのが好まれるんでしょうね。

佐藤:どうしようもない悪が最近出てこないですよね。悪人じゃないようにしておこうという風潮があるのかもしれないな、なんて。

横川:たぶん悪人に対して視聴者がストレスを感じやすくなっているんだと思います。あと、これは穿った見方かもしれませんが、SNSの盛り上がりを作ろうとすると、「悪い人だと思ってたけどやっぱりいい人やった! うぉー!」のような反響とかは話題になりやすいのかなって。起爆剤になりやすいからという背景もあるんでしょうかね。

佐藤:あ、でもそれでいうと『最愛』の昭さん(酒向芳)は最後まで悪でしたね。

横川:むしろ、最終回で1番悪くなった。

佐藤:あのしつこさにも「息子を愛するがゆえにね」って、「この人にも“最愛”があるからだね」って、温情があったのに。最終回であんなこと言ったから「はい、それはもう悪です!」ってなりました(笑)。

横川:殺してもしょうがないと思わせる、加瀬さんを同情させるためだったのかな。しおりはかわいそうじゃない? って思いますもんね。故意ではなかったけど、しおりに関しては、加瀬さんにはちょっと大いに反省してほしい。

佐藤:そうですね。愛ゆえに正義感や社会的な責任感が揺らいでしまうというのが、この作品のキーではありましたが、傍観者としては「なんで最初の事件のときに」と悔やんでしまうというか。引き返しポイントがいくつもあったよ、と。

横川:達雄さん(光石研)が1番ダメじゃない? って思いましたね。親の愛って歪むんだなと。

佐藤:それこそこの『最愛』の物語を、ネット記事のタイトルだけのように表面的に見たら「子供に責任を問わせないどうしようもない親父が2人いたんだな」みたいな感じにはなりますね。

横川:康介は最初から最後まで、きれいに悪だったので良かったです。みんなが、康介に石をぶつけられるから。

佐藤:きっと康介の背景まで描いてしまうとまた別の見方になっちゃうのかもしれないですね。一人ひとりの背景を描きながらも、物語の執着まで視聴者の向く先を誘導していくのは本当に緻密なんだろうなと。新井P自身はインタビューで「あまり誘導しすぎるのもドラマの楽しみ方としては良くないだろう」と言っていたのが印象的でした。観る者を迷わせないストーリーの進め方と、どこからが説明過多なのかという視聴者目線を持っているのって強いですよね。

横川:塚原監督も、3カ月という時間をかけて視聴者と関係性を育むドラマの特性をよくわかって演出されている。お2人はすごくテレビドラマというフォーマットに誇りを持っているというのは感じますね。

佐藤:そもそもドラマ好きな人が作るドラマだから、やっぱりドラマファンに刺さるんでしょうね。「見たいものを作る」の言葉は、作り手として最強だと思います。

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