『あなたの番です 劇場版』はドラマ映画化の救世主になるか 見え隠れする作り手の遊び心

 いま再び日本映画の潮流として台頭の時を迎えている「テレビドラマの映画化」。そのなかで『あなたの番です 劇場版』は、かつてのような(今後確実に起こりうるであろう)乱立による観客の辟易ムードをあらかじめ切り崩し、新たな切り口を見つけ出す救世主となるのではないだろうか。明確にドラマ版から地続きになったストーリーでもなく、単純に規模を拡大しただけでも、特定のキャラクターにフォーカスしたスピンオフでもない。根底の部分をドラマ版と同一にしながら、分岐したアナザールートを走る“パラレルワールド”であり、その世界線としての独自性を持つ。偶然にも同じタイミングで公開されている『マトリックス レザレクションズ』と同じにおいがする映画だ。

 “キウンクエ蔵前”という各フロア4部屋ほどしかないマンションに引っ越してきた15歳差の夫婦である翔太(田中圭)と菜奈(原田知世)は、引越し初日から管理人の床島(竹中直人)の無遠慮な態度や隣人の尾野(奈緒)の奇妙さに違和感を覚える。そして早速開かれた住民会にどちらが参加するかをジャンケンで決め、チョキとパーで翔太が勝利。住民会へ向かった菜奈は、その歓談の場で互いに殺したい相手の名前を書いてシャッフルする遊びを行う。そしてその夜、床島が転落死を遂げることをきっかけに、遊びだったはずの“交換殺人ゲーム”が現実のものとなる。

 これは2019年に放送された『あなたの番です』(日本テレビ系)のドラマ版の導入部分である。そこから20話、約半年にわたって放送された内容を“見ておくに越したことはない”というのはテレビドラマの劇場版すべての作品に通じる掟のようなものである。とくに本作においてそれは登場人物たちの関係性やキャラクターなどを知らなければ掴みきれない行動が多々見られるからであり、また同時に、前述したように地続きになった物語ではないにしろ、根底の部分、つまり黒島沙和(西野七瀬)というドラマ版における黒幕の過去が如実に劇場版にも影響しているからでもある。

 とはいえ、この黒島の過去が描かれていたのはドラマ版ではなく、Huluで配信されている「番外編 過去の扉」。要するに、20年ほど前に訪れた前回の「テレビドラマの映画化」ブームと現在のそれとが明らかに違うのは、各テレビ局がそれぞれ懇意にしている配信サービスへの足掛かりとしての役割も映画作品が担わされるという極めて商業的な側面であるといえるかもしれない。それは一見、不親切なもののように思えるけれども、かつてのように映画公開前の再放送を逃したら予習するタイミングを逃してしまうということも配信サービスによって解消されていることは否定しようがない。“初見泣かせ”の劇場版を作る代わりに、簡単におさらいする選択肢を与えられていることが、いまのブームの下支えになっているといえるのだ。

※次ぺージ以降、一部作品内容に触れる記述あり

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