2021年の年間ベスト企画

杉本穂高の「2021年 年間ベストアニメTOP10」 アニメ作品に反映された“変化”の兆し

4位:『CALAMITY カラミティ』

『CALAMITY カラミティ』(c)2020 Maybe Movies ,Norlum ,2 Minutes ,France 3 Cinema

 全カットが美しくて、至福の鑑賞だった。冒険活劇としての躍動感に満ちていて終始ワクワクしっぱなしの作品だった。

3位:『漁港の肉子ちゃん』

『漁港の肉子ちゃん』(c)2021「漁港の肉子ちゃん」製作委員会

 キャラクターデザインを含めた、肉子のキャラクター造形が素晴らしかった。病室での肉子の芝居は驚くべき完成度だった。この丁寧さが日本アニメから失われてほしくないと本当に思う。こういう映画がもっと売れてほしい。

2位:『アーケイン』

 グラフィックノベルを動かしたような、斬新なテクスチャーの絵柄と情緒ある物語が素晴らしく、心からこの世界に引き込まれた。『スパイダーマン:スパイダーバース』以降、フォトリアルではないテクスチャーの模索が盛んになっているようで嬉しい。これからの映像はリアルの呪縛から解き放たれていくだろう。本作はそうした作品群の代表的な一本だ。

1位:『平家物語』

『平家物語』(c)「平家物語」製作委員会

 「変化」がキーワードだと先に書いたが、本作には没落という変化が描かれている。変化して生き残るものもあれば、死んでいくものもある。変化とは残酷だ。だが、たとえ、諸行無常の世界の変化の波にのまれて失われたとしても、その屍もまた文化の礎となるのだと本作は伝える。

 『平家物語』はなんとも珍しい物語だと改めて思った。軍記ものだが勇ましくなく、むしろ哀しい。勝者が支配する鎌倉時代に成立したのに、敗者を慈しむような物語なのだ。敗者もまた、その歴史を語り継ぐものが途絶えない限り、「敗者」という立場で歴史を担えるのだ。人の愚かさ、哀しさ、優しさ、美しさを語り継ぐという意思に満ちた大変な傑作だ。

 そのほか、惜しくも選考外となった作品を紹介する。

 劇場作品では、『映画大好きポンポさん』、『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』、『アイの歌声を聴かせて』の3本は、それぞれの作家がその実力を強く印象づけた。アニメ映画の企画が増えたことでより多くの作家に活躍の場が回ってきているのは良い傾向だと思う。

 テレビアニメでは、『かげきしょうじょ!!』『不滅のあなたへ』あたりもランクインさせたかった気持ちもある。

 海外作品では、『ジュゼップ 戦場の画家』『トゥルーノース』も意義深い作品だった。『整形水』も意欲的なテーマだった。整形は「変身願望」と言い換えられる、アニメの歴史には魔法少女ものをはじめ、数多くの「変身願望」が描かれてきた。その文脈においてみるととても面白く観られる作品だ。

 2020年から続くパンデミックのトンネルはまだ明ける兆しが見えない。しかし、そのトンネルの中にいながらにして、変化が加速している。2022年は、日本のアニメ産業も世界にコンテンツ市場も前向きな方向に変化してほしいと切に願う。

■放送・配信情報
『平家物語』
フジテレビ「+Ultra」ほかにて、2022年1月12日(水)スタート 毎週水曜24:55~放送
他各局でも放送
FODにて独占配信中
※放送日時は都合により変更となる可能性があり
声の出演:悠木碧、櫻井孝宏、早見沙織、玄田哲章、千葉繁、井上喜久子、入野自由、小林由美子、岡本信彦、花江夏樹、村瀬歩、西山宏太朗、檜山修之、木村昴、宮崎遊、水瀬いのり、杉田智和、梶裕貴
原作:古川日出男訳 『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集09 平家物語』河出書房新社刊
監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
キャラクター原案:高野文子
音楽:牛尾憲輔
アニメーション制作:サイエンスSARU
キャラクターデザイン:小島崇史
美術監督:久保友孝(でほぎゃらりー)
動画監督:今井翔太郎
色彩設計:橋本賢
撮影監督:出水田和人
編集:廣瀬清志
音響監督:木村絵理子
音響効果:倉橋裕宗(Otonarium)
歴史監修:佐多芳彦
琵琶監修:後藤幸浩
(c)「平家物語」製作委員会
公式サイト: HEIKE-anime.asmik-ace.co.jp
公式Twitter:@heike_anime

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