『アバランチ』はドラマの可能性を拡張 綾野剛演じる羽生は何を守ろうとしたのか?
大山は何を守りたかったのだろう? 筆者にはそれが最後まで見えなかった。国民、国家、権力の椅子を守ろうとした大山は、本当のところ守りたいものがなかったのではないだろうか。国民を信じない大山とテロリストのメンタリティは似通っている。守るものを持たない人間の追いかけた幻影が、多くの犠牲の上に成立する国益を守る組織だったことは痛烈な皮肉で、なおかつ悲劇だったと思う。
一国のトップが改心したことを挙げて、やっぱり最後は偉い人間に頼るのかと思うなら、それは少し早合点だ。羽生たちの起こした雪崩が国民の代表である総理にも届いたというだけで、やっていることは国民一人ひとりに対する時と変わらない。国民の声に耳を傾けるのが総理というくだりがやや楽観的であるとしても、羽生に袋をかぶせられても怒らずに話を聞きに来たのだから、このくらいは花を持たせてもいい。
羽生や山守は少しも自分を守ろうとしなかった。藤田もである。それを自己犠牲と言えば言えるが、なぜそれができたかと思いを巡らせたときに、それぞれが相手のことを信じていたからとしか言いようがない。互いの立場が変わり、よんどころない事情で裏切られたとしても、言葉にせずとも信じ合えるものがあった。羽生にそれを教えたのはあかり(北香那)で、人間の尊厳に対するプライドが根源にあった。
『アバランチ』は良い意味で逸脱した作品だった。社会へのカウンターで、既存の価値観に揺さぶりをかけるアンチヒーローは人々の代弁者、いや意志そのものだった。ドラマの可能性を拡張した最大の要因は視聴者を信頼したことで、制作に携わった全員の勝利でもある。何者でもないアバランチはどこまでも痛快で崇高だった。それは新しい季節の訪れを告げていた。雪解けとともに起きる雪崩のように。
■配信情報
『アバランチ』
TVer、FODにて配信中
出演:綾野剛、福士蒼汰、千葉雄大、高橋メアリージュン、田中要次、利重剛、堀田茜、渡部篤郎(特別出演)、木村佳乃ほか
監督:藤井道人、三宅喜重(カンテレ)、山口健人
音楽:堤裕介
主題歌:UVERworld(ソニー・ミュージックレーベルズ)
プロデュース:安藤和久(カンテレ)、岡光寛子(カンテレ)、笠置高弘(トライストーン・ピクチャーズ)、濵弘大(トライストーン・ピクチャーズ)
制作:カンテレ、トライストーン・ピクチャーズ
(c)カンテレ
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