『ミラベルと魔法だらけの家』に抱く、ディズニーへの敬意とテーマ選びの難しさ
だが、一方でこの「家族を大切にしよう」という描き方が、時には難しい問題を内包してしまう。日本では是枝裕和監督作『万引き家族』、ポン・ジュノ監督作の韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が世界で高く評価されるなど、各国から家族の問題をテーマにした作品が多く誕生している。さらには、日本では2021年の流行語大賞で「親ガチャ」という言葉が取り上げられ、ネグレクトや虐待、子供の貧困や、家族がいない児童などの問題も、今まで以上に関心が寄せられているように感じる。
「家族は素晴らしい、大切にするべき存在だ」という道徳に対しては、確かに文句が出にくいものである。しかしそれは、大切にするべき家族を持ったからこそ言えることでもある。家庭内暴力もなく、貧困もなく、そもそも家族がいる。そういった幸せな家族だからこそ、それらを大切にしよう、守っていこうと語ることができる。
『ミラベルと魔法だらけの家』では、その点において大きな難点を抱えてしまった。家族それぞれに悩みがあり、長所と欠点もあるものの、それらは人格的に問題があるというほどではなく、誰もが愛すべきキャラクターとなっている。その点は1本の子供向けアニメーション映画として素晴らしいのだが、同時に一種の上流階級の絵そらごとのように見えてしまう部分もある。家族に対してプラスの感情を持たない人が見れば、その描き方に対して大きな疑問符が出てしまうのではないだろうか。
おそらく、制作側もこのような受け止め方をされることは想定していないように感じる。ディズニーほどの世界を相手にする映画を表現している企業の作品となると、観客や国による受け取り方が変化してしまう問題はどうしても生じてきてしまう。
一方で、ディズニーらしい先進的な描き方があったことも紹介しておきたい。物語終盤のネタバレにはなってしまうが、感心したのはあるオチの描写だ。具体的な描写は避けるが、古きにわたる伝統を尊重するだけでなく、新しい価値観によって更新していくことを認めていこう、という描き方がされていた。ディズニーやピクサーの映画には2つのメッセージが内包されていることが多いが、今作の場合は「家族を大切にしよう」というものと、「伝統の更新により共同体を進歩させていこう」というものがあった。
昔からの古い価値観を守り続けていくだけでは、その共同体にも綻びが生まれてしまう。個人の意見や思いが黙殺されてしまい、ミラベルの姉であるルイーサとイサベラが我慢を重ねることで共同体を継続させるだけでは、それはいつか崩壊してしまう。だからこそ、個人の思いを尊重し、個性を活かすことで共同体も変化していき、柔軟に成長することができると説いていたのは、ディズニーらしい進歩的なメッセージだった。
コロンビアの家族というラテンアメリカを舞台にするだけではなく、コロンビアの侵略や長きにわたるコロンビア内戦などに言及するなど、その土地の負の歴史にも着目した『ミラベルと魔法だらけの家』は、さまざまな問題と進歩的なメッセージを日本人にも投げかけてくれた。さまざまな議論の元になればこそ、この映画が制作された意義が最も強く現れるのではないだろうか。
■公開情報
『ミラベルと魔法だらけの家』
全国公開中
監督:バイロン・ハワード、ジャレド・ブッシュ
音楽:リン=マニュエル・ミランダ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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