『カムカム』世良公則の歌を響かせた金子隆博のアレンジ 演出が明かす日向の道への願い

 ジャズ喫茶「Dippermouth Blues」の店主・定一(世良公則)の伸びやかな歌声と安子(上白石萌音)の泣き笑いで幕を閉じた『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)第6週。

 夫・稔(松村北斗)が自分に残してくれた英語を手に、安子が新たな扉を開いていくのであろうことを予感させられる。米軍将校・ロバート(村雨辰剛)との “初の英語会話”がきっかけで、進駐軍のオフィス、そして将校クラブでのクリスマスパーティーに招かれ、“勝戦国側”、“敗戦国側”としてではなく、それを超えた一対一の人間同士として互いの身の上を語り合う。ロバートが日本語や日本語学と出会ったきっかけも大切な亡き妻にあり、2人の境遇が近しいこともわかる。

 義母・美都里(YOU)の影響もあり、娘のるい(中野翠咲)に「お母さん、なんで私はカムカム英語を聞きよるん?」と問われれば、言葉に詰まってしまい、稔がるいの命名に込めた本当の意味を本人にも打ち明けられない安子。そんな安子に、 “娘のるいだけでなく安子にも日向の道を歩んでほしいと願っているはず”という稔の気持ちをロバートが察して代弁したところで、2人の思い出のあの曲が流れるのだ。定一が突如バンドのメンバーチェンジを指示し、「On the Sunny Side of the Street」を自ら歌い出す。

 世良公則演じる定一が歌う「On the Sunny Side of the Street」には、聴衆を惹き込み、そこにいる人もいない人も全ての者を祝福するかのように包み込む強さがあり、安子の傷をそっと撫で、言葉に出来ない悶々とした気持ちを洗い流してくれているかのようだった。正に鳥肌モノだ。

 原曲とは異なるアレンジがなされていたようだが、本作の音楽を手がける金子隆博(米米CLUB)とのやり取りについて演出の二見大輔は振り返る。

「進駐軍のライブハウスで歌うというテイストを意識してピッチを変えてもらいました。クリスマスパーティーのシーンでは原曲のトーンだと暗めなのでお祝いのトーンも含めてもらっています。曲のグルーヴ感によって芝居の温度やリズムが変わってくると思っていたので、前奏、間奏の長さを調整してもらい、世良さんの歌いやすいキーや速さに微調整をかけてもらいました」

 「何の因果じゃろうのう。稔を殺した、健一(前野朋哉)を殺したかもしれん国の音楽をわしゃあ今日もかけとる」とこぼしていた定一だったが、改めて彼自身がジャズや音楽が持つ説明できない力を体の底から感じ、他の誰でもない自分のことを奮起させているかのようだった。

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