2021.12.07 16:00

下北沢で生まれた映画がついにソフト化　『街の上で』が描いた“脱線”と“余談”の記録

文＝原航平

　今泉力哉監督が描く登場人物は、いつだって自由だから見ていて朗らかな心地になる。他人が決めた正解ではなく、自分の感情に従って動いているような気がするのだ。だから職業不詳の人物も、二股をしている人も、自分の気持ちを正直に告白する人も、ほんとうにいっぱい登場する。

　『愛がなんだ』の主人公・テルコ（岸井ゆきの）は、好きな人であるマモちゃん（成田凌）を追いかけ続けるあまり、仕事すら手につかず会社をクビになってしまった。仕事をして給料をもらって、自炊して生活すること。好きになっても相手にその気がなかったらすっぱり諦めて、次の人を見つけること。そうした正しさとか常識みたいな考え方がすっぽりと抜け落ちているヒロインだった。テルコにとってはマモちゃんと一緒に生きていく未来しか正解ではなかったのだ。

　結婚すること、子供を産んで家族をつくること、バリバリ働いてお金を稼ぐこと。そうした固定的な幸せの形が瓦解している現代だからこそ、今泉映画の中の時にはダメすぎることもある愛しき人々が近くで寄り添ってくれている感じがある。いつでもあなたの姿を見つけると、心強い気持ちになります。

　公開から半年以上が経ち、『街の上で』のDVD・Blu-rayがついに発売される。決してビッグバジェットではない、下北沢の映画祭で生まれた小さな映画がソフト化されるなんて奇跡みたいだ。「残っていく文化・芸術と、変わっていく街・人々」を捉えたこの映画が、円盤の形になって後世に残されていくのはうれしい。

　ソフトには映画本編に加え、未公開映像とメイキングが贅沢なボリュームで収録されている。「撮ったけれど本編には収録されなかった映像」というのは、いかにも『街の上で』的であり。荒川青が「脱線」の末にたどり着いた映画制作現場で、ガチガチに緊張してまったく演技ができていなかったファーストシーンを思い出す。

「誰も見ることはないけど、確かにここに存在してる」

　私たちは寄り道の愛おしさを知っている。『街の上で』を見て、面白くない！　と思ったとしても、それはきっと特別な脱線であると信じている。この映画を肴にたくさんの人と余談を連ねたいものだ。

■リリース情報
『街の上で』
12月8日（水）Blu-ray＆DVD発売
●Blu-ray
価格：6,380円（税込）
仕様：2枚組＜本編Blu-ray 1枚＋特典映像DVD 1枚＞
ブックレット封入（16P）
アウターケース仕様（初回仕様版のみ）
※商品の仕様および特典映像・封入物の内容は変更になる場合がございます。ご了承ください。

●DVD　
価格：5,280円（税込）
仕様：2枚組＜本編Blu-ray 1枚＋特典映像DVD 1枚＞
ブックレット封入（16P）
アウターケース仕様（初回仕様版のみ）
※商品の仕様および特典映像・封入物の内容は変更になる場合がございます。ご了承ください。

●特典映像DVD収録内容（Blu-ray/DVD共通）
未公開シーン＆ショット、メイキング特番、予告編集
初日舞台挨拶集、ラッキーオールドサン「街の人」LIVE映像

出演：若葉竜也、穂志もえか、古川琴音、萩原みのり、中田青渚、成田凌（友情出演）ほか
監督：今泉力哉
脚本：今泉力哉、大橋裕之
音楽：入江陽
主題歌：ラッキーオールドサン「街の人」（NEW FOLK / Mastard Records）
配給：『街の上で』フィルムパートナーズ
配給協力：SPOTTED PRODUCTIONS
(c)『街の上で』フィルムパートナーズ
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