町田啓太、『SUPER RICH』で見せる恋と仕事の2つの顔 繊細な演技の変化を追う

 こんな部下が欲しい……。『SUPER RICH』(フジテレビ系/以下、『すぱっち』)の空(町田啓太)を見たら、多くの人がそう思うだろう。主人公・衛(江口のりこ)の“忠犬”とも言われる空は、誰にでも従順なわけではない。6年前、いちばん辛かった時期に支えてくれた衛だから、尽くしているのだ。ある意味、盲目的な想いのように見えるが、受け取った恩を忘れないところに、彼の心の美しさが垣間見える。空は、衛に対してさまざまな想いを抱いている役柄だ。上司としての憧れ。かつての恩人への感謝の気持ち。そして、恋心。そんなごちゃ混ぜの想いを、繊細に表現しているのが、町田啓太である。

 たとえば、第3話。報酬を得るために、プライドを捨てそうになった衛に、空は「やりたくないことは、やりたくないって僕には言ってください」と訴えた。そして、「俺に、嘘はつかないでください」と続けたのだ。“僕”と、“俺”。ただの一人称の変化かもしれないが、町田の表情に注目すると、そのなかに覚悟が見える。部下としてだけではなく、男として衛と向き合っていきたいという覚悟が。

『今際の国のアリス』Netflix独占配信中

 町田は、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京ほか/以下『チェリまほ』)のようなコメディ作品から、『青天を衝け』(NHK総合)など硬派な演技を求められる作品まで、得意分野を絞らず、多様な役柄に挑戦してきた。とくに、『今際の国のアリス』(Netflix)で見せた柄の悪い金髪姿には、驚かされたものだ。彼の表情のバリエーションが豊富な理由は、経験値の高さにあるのかもしれない。『すぱっち』でも、前述の「僕」と「俺」の切り替えだけでなく、繊細な表情の変化で感情を表している。とくに、衛と一緒にいるときと、ライバル・優(赤楚衛二)の前で見せる表情のギャップが可愛らしいので、ぜひ着目してほしい。

 さらに、6年前の空と現在の空は、別人級の変化が求められる。6年前の彼は、上司からパワハラを受けて、「死にたい」と思うほど追い詰められていた。その苦しみが、姿勢にも表れている。6年前の空は、人生に絶望したように腰を曲げており、放っているオーラも暗い。しかし現在の空は、やる気に満ち溢れているのか、常に背筋をシャンとしているのだ。“衛がいれば大丈夫”という安心感から生まれた自信なのだろう。時系列を分かりやすくするために、6年前の空はメガネをかけていて、現在はかけていない……と容姿を変化させているが、たとえメガネがなくとも理解することができると思う。町田が、全身で冴えないオーラを表現しているからだ。

関連記事