デジタル世代が直面する問題を描く 『ロン 僕のポンコツ・ボット』が示す未来への活路

 一連の流れはユーモラスに描かれているが、ここで考えさせられるのが、現代人におけるインターネットやSNSへの依存というシリアスな問題についてである。Bボットが、いつも子どもたちの側についてまわっているように、われわれもまたスマートフォンを肌身離さず持ち、時間さえあればSNSを覗いたりする。もちろん、情報技術はわれわれの生活を便利なものにしたといえるが、インターネットに親しんできた「デジタルネイティブ」、そして物心がつく頃からスマートフォンなどの携帯端末に触れている新世代には、何か特有の弱点なあるかもしれないという問題提起が、本作ではなされているのだ。

 SNSでは、自分と共通の趣味や話題を持つ相手と繋がることができる。それは個人を孤独から救い出してくれたり、気の合う友達探しの時間を短縮することになるだろう。その反面、子どもの頃から人間付き合いにおける面倒くさいプロセスをショートカットしてしまうと、そこで得られる経験や、異なる価値観を持った相手と出会う機会を逸してしまうのではないだろうか。

 それは、インターネットが提供するマーケティングも同様だ。一冊本を買うと、類似したタイトルがおすすめされたり、動画サイトでも近い内容のコンテンツが目の前に並ぶことになる。子どもの頃からそのような状況にあると、知識や趣向の可能性が狭められることにならないか。目の前に本の実物が並ぶアナログな書店と、デジタルなAmazonのサイトには、そのような本質的違いが存在する。本作は、この問題を“ロン”という異物を通して描いているのである。

 自分のパーソナリティを世界中に発信して友達を増やすことができたり、動画出演を通して有名な存在になれるかもしれないという利点も、失敗をしたときに大勢から責められ、いったん拡散した情報を簡単に消すことができなくなる「デジタルタトゥー」が刻まれるなど、対照的なリスクがつきまとうことになる。そして、便利な機能を使用する代償として、インターネットのユーザーは個人データを企業に収集、利用されてしまう場合があるのだ。

 このように、新しいデジタル世代は、大きな可能性を得ると同時に大きなリスクや貧しさを背負うことにもなるのである。CDやMP3などの流通が、アナログレコードのサウンドの持つ豊かさを浮かび上がらせ、失われたものを意識させたように、本作はBボットの普及を題材に、技術がもたらす光と影を同時に描いたのだ。しかし、デジタルの利便性を知ることになったわれわれは、もう昔の生活に逆戻りすることは難しいだろう。

 そこで、本作は未来への活路を示すことになる。それは、“アナログとデジタルの融合”という考え方だ。デジタル技術がアナログの世界から、一見邪魔に思える“ノイズ”のような余分な“豊かさ”を取り出すことができないかということ。そして、それが特定の者たちの利益に還元されたり、人を傷つける行為に利用されるのでなく、全ての人類を幸せにするために使われることになったら、どうだろう。もし、そんな未来が到来したとすれば、それは人間の本当の進化のかたちなのかもしれない。

 ここで提示された“ロン”という可能性、そしてロンがもたらす理想の世界は、まさに現代の人々が直面する課題であり、それを乗り越えるための一つの解答である。『ロン 僕のポンコツ・ボット』は、その意味で、いまこそ必要な作品であり、アニメーションがここまで重要な問題を克明に、そして誠実に描くことができるという、生きた見本でもあるのである。

■公開情報
『ロン 僕のポンコツ・ボット』
全国公開中
監督:ジャン・フィリップ・ヴァイン
制作:ロックスミス・アニメーション
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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