『レミニセンス』リサ・ジョイ&ジョナサン・ノーランに聞く、映画とTVドラマの未来

 ヒュー・ジャックマンが主演を務めたSFサスペンス映画『レミニセンス』が9月17日より公開中だ。都市が海に沈み、水に支配された近未来の世界を舞台に、“記憶潜入(レミニセンス)エージェント”のニックが、とある凶悪事件の鍵を握る謎の女性メイを追いかけ、記憶にまつわる謎の先へと踏み込んでいく。本作が監督デビュー作となった『ウエストワールド』のリサ・ジョイがメガホンを取り、彼女の夫でありクリストファー・ノーランの弟でもあるジョナサン・ノーランが製作を担当。そんな2人に、『ウエストワールド』にも通じる“記憶”というテーマや、映画とTVドラマの未来について語ってもらった。

ジョイ「『ウエストワールド』の続きでもあり、違ってもいる」

ーー海に沈み水に支配された世界や記憶潜入の装置、ニックとメイの幻想的な描写など、こだわり抜かれた世界観が本作の魅力のひとつであると感じました。このような表現を実現するにあたり、最も意識したことを教えてください。

リサ・ジョイ(以下、ジョイ):本当にたくさんの部分にすごくこだわってしまいました。“冠水している通り”もその一つ。“沈む”ということはひどいことではありますが、そういう状況の中にも美があると思うので、それを表現したいと思いました。マイアミのアールデコなどを上手く使いつつ、世界を作っていきました。かつてグラマラスだった一つの時代を感じさせるようなアプローチをして、衣装も水の中で歩ける靴をデザインしたりしているんです。時間の経過とともに、モノに生活臭がしていくような、みんなこの世界で生きているんだと感じさせるようなデザインを施しました。また、多文化を意識していますね。私自身、母がアジア系なので小さい頃からいろんなところに行って、アジアの夜市に行った記憶がすごく残っているので、水上市場などは当時の素敵な雰囲気を活かしたいなと思っていたんです。それにインターナショナルなものにしたかったので、よく見ていただくと分かると思いますが、劇中の看板なども多言語になっていたりします。

ーー今回の作品のテーマ的は、『ウエストワールド』に通じるところがあると思います。『ウエストワールド』から何か発展させようとしたこと、また『ウエストワールド』ではできなかったことを『レミニセンス』で試そうとしたことはあったのでしょうか?

ジョイ:私は以前から記憶というものに心奪われてきました。実はジョナ(ジョナサン・ノーラン)と最初に出会ったときに、仲良くなるきっかけになったのも、“記憶に対する興味”だったんです。記憶はこの世界についてたくさんのことを教えてくれる。ある意味、私たちは自分たちが集めた記憶や、その瞬間、瞬間で自分に語ってきたストーリーの集積でもあるので、記憶は私たちが誰であるのかを教えてくれるものであり、アイデンティティと繋がっているんです。文化とも繋がっています。家族、国、世界という集団として、私たちは記憶を共有している。それが私たちの世界のストーリーです。過去を理解せずには、誰かを、あるいは何かを本当の意味で理解することはできません。そんな中で、記憶は過去を辿り、訪れる特殊な方法でもあります。でも欠点がある。主観的なものだから、記憶から何かを消すこともできるし、何かを忘れたり、ストーリーを書き換えることができてしまう。それは怖いことです。子供時代を思い出したときに、(そういうことが起き得ることを考えると)難しいことだし、悲しいことかもしれないと思ってしまいます。

ーーなるほど。具体的にどういうことでしょう?

ジョイ:例えば、何か事件を思い出したとします。そのとき、私たちはそこに居合わせたことを思い出しているのでしょうか? それともそこにいた人から話を聞いたのでしょうか? あるいは、そこにいる自分を想像しているのかもしれない。判断するのは難しいですよね。

ーー確かにそうですね。

ジョイ:私はその難しさに、常に関心を持ってきました。『ウエストワールド』では、世界における自分の居場所や、人間が誰なのかを理解しようとするAIを通し、そのことや人間というものについて掘り下げることができました。『レミニセンス』では、より人間的な、何かを求める気持ち、欲求、時には激しい怒りを通し、有機的な形で記憶を模索したいと思いました。『レミニセンス』におけるその模索は、『ウエストワールド』でやってきたことの続きでもあり、『ウエストワールド』と違ってもいるわけです。

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