パオロ・ソレンティーノ節全開! 『ニュー・ポープ 悩める新教皇』を彩る音楽造形の深さ

 アカデミー賞をはじめ様々な映画賞を受賞して、イタリア映画を代表する新たな巨匠となったパオロ・ソレンティーノ。彼の作品の魅力のひとつは音楽だ。サントラ以外にも様々な楽曲が使用されていて、作品からソレンティーノの音楽に対する愛情やこだわりが伝わってくる。

 例えば、隠遁生活を送っているロックスターを主人公にした『きっと ここが帰る場所』(2011年)。原題「This Must Be the Place」はトーキング・ヘッズの代表曲を引用したものだが、劇中に登場するオリジナル曲をトーキング・ヘッズの中心人物、デヴィッド・バーンと、USインディー・シーンを代表する孤高のシンガー・ソングライター、ウィル・オールダムが担当した。一方、『グレート ビューティー 追憶のローマ』(2013年)では、アルヴォ・ペルト、ヘンリク・グレツキといった現代音楽の巨匠たちの曲と、ボブ・シンクレアやESGといったダンス・ミュージックを織り交ぜて、ローマという街の不思議な魅力的に浮かび上がらせた。そんななか、ソレンティーノが手掛けた配信ドラマ『ニュー・ポープ 悩める新教皇』も彼らしい音楽センスが光る作品だ。

 『ニュー・ポープ 悩める新教皇』はジュード・ロウが史上最年少の教皇、ピウス13世を演じて話題になった『ヤング・ポープ美しき異端児』の続編。物語の舞台となるのは、カトリックの総本山であるバチカンの中枢部、教皇庁だ。『ヤング・ポープ 美しき異端児』の最終回で、ピウス13世が心臓発作で倒れた直後から物語は始まる。ピウス13世は昏睡状態のまま目を覚まさず、やむなく新しい教皇を決める選挙=コンクラーヴェが行われることに。そこで暗躍するのが教皇の下で権力を握る国務長官のヴォイエッロ枢機卿(シルヴィオ・オルランド)だ。教皇の器を持ちつつ、自分がコントロールできる人物をーーそう考えてヴォイエッロが白羽の矢を立てたのが、イギリスの名家の出身のジョン・ブラノックス枢機卿(ジョン・マルコヴィッチ)だった。ヴォイエッロの裏工作で教皇に選ばれたブラノックスは、ヨハネ・パウロ3世を名乗ることに。しかし、次々と難問がヨハネ・パウロ3世の前に立ちはだかる。

 第1話のオープニングからソレンティーノ節が全開だ。昏睡状態のピウス13世の枕元にはネオンの十字架が輝き、ピウス13世の体を拭いた修道女は感極まって股間に手を当てて身悶える。そして、オープニング・タイトルになると、修道女たちがソフィー・タッカー「グッド・タイム・ガール」に乗って官能的なダンスを披露する。ソフィー・タッカーはニューヨークを拠点に活動する男女デュオ。「グッド・タイム・ガール」はグラミー賞のベスト・エレクトロニック・アルバム賞にノミネートされたファースト・アルバム『ツルーハウス』に収録された曲だ。ナイトクラブのような教会のなかで、エレクトロニックなダンス・ミュージックで踊る修道女たち。そんな妖しくも罰当たりな映像が、このドラマのユニークな世界観を伝えている。

 そして、シリーズの後半になると、オープニング曲は『ヤング・ポープ 美しき異端児』で使われたイギリスのラッパー、デヴリンのヒット曲「ウォッチタワー」(インスト・ヴァージョン)になる。この曲のポイントは、ボブ・ディランの名曲「見張り塔からずっと」のメロディーと「見張り塔からずっと」をジミ・ヘンドリックスがカバーした際のギターのリフをサンプリングしていること。アメリカ生まれのピウス13世を、ディランやジミヘンと同じ新時代のロックスターになぞらえているような選曲だ。しかも、水着の美女たちが戯れるビーチを、法衣と同じ純白の海パンを履いたピウス13世がフェロモンを撒き散らしながら歩く、という強烈な映像になっている。

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