超潔癖症の主人公に思わず共感? “愛のジレンマ”と向き合う映画『恋の病』

 あなたにとって「運命の人」と呼びたくなる人は、どんな人だろうか。「これ」というポイントをぜひ挙げてみてほしい。

 顔が好みのタイプ? 趣味が似ている? 笑いのツボが一緒? 金銭感覚が合う? 将来のビジョンが近い? 同じ痛みを抱えている?

 では、その完璧な「運命の人」が現れたとして、もしあなたが求めていたその要素が変わってしまったとしたら? あなたの愛も変わってしまうのだろうか。その人自身を愛していたのか、それともその要素を愛していたのか……。そんな愛の不確定さについて考えさせられる映画が公開される。『恋の病 〜潔癖なふたりのビフォーアフター〜』だ。

 この映画では、“重度の潔癖症“という共通点がある1組の男女を結びつける。台湾に住む青年ボーチン(リン・ボーホン)の生活は、完璧なベッドメイキングから始まり、毎朝新品の歯ブラシをおろして歯磨きをする。毎日の念入りな掃除により、ホコリひとつ見当たらない清潔な部屋。外の世界はバイ菌がいっぱいだと思うボーチンは、不要不急の外出はしない。やむを得ず外出する際には、手袋とマスク防塵服という完全装備だ。

 その生活はボーチンにとって快適なものとは言えなかった。できれば、一般的な社会生活を営みたい。自宅の部屋と必要最低限の外出の行き来ではなく、大空を羽ばたく鳥のように自由に自分の行きたいところへと行ってみたい。そんな思いを抱きながら、今日もしぶしぶ消毒液を買いに向かう。

 だがある日、同じような格好の女性・ジン(ニッキー・シエ)を発見するのだった。明らかに周囲から浮いている2人。でも、お互いその理由は語らずともわかる。まさか、こんな出会いがあるなんて! これまで孤独と疎外感に苛まれていた2人にとって、まさに「運命の人」と呼べる相手だった。

 2人は、お互いの「強迫行動」について語り合う。ボーチンは異常な手洗いがやめられず、ジンは万引きせずにはいられない窃盗症を抱えていたのだ。他人からはなかなか理解されない行動。でも、ボーチンとジンにとっては得難い共通点となり、その社会的に見れば不便な生活によって2人の絆はどんどん深まっていく。

 さらに、ボーチンにとって苦手なタイピングが、ジンは大の得意だということもわかる。相手の欠点を自分の特技が補うという、パズルのピースがピタッとハマるような感覚。1人では窮屈だった日常も、2人なら理想的な生活となって輝いた。「ずっとこのまま変わらないで……」そう願ってある誓いを立てた2人。だがその矢先、彼らに大きな試練が降りかかる。

 突然ボーチンの潔癖症が治るのだ。ボーチンにとっては念願の日だったが、ジンには不安がよぎる。潔癖症だったから出会い、理解し合えた2人。行動範囲が制限されていた生活から自由になった瞬間、ボーチンはどう変わってしまうのか。変化していくボーチンに対して、ジンはどう愛していけばいいのか。

 ビビットなカラーが随所に散りばめられた映像美。潔癖症という病を恋のきっかけとして描くポップさから、どこか夢見心地だった物語が、残酷なほど現実的な視点に引きずり込まれていく。その様子は、ちょっぴりホラーを感じさせるほどだ。

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