『白い砂のアクアトープ』なぜ“お仕事アニメ”として評判に? 心の再生描くドラマの魅力
現在、放送中のテレビアニメ『白い砂のアクアトープ』(2021年/TOKYO MXほか)は、制作会社P.A.WORKSによる“お仕事シリーズ“の第4弾とされている。P.A.WORKSはこれまでも、職場で働く若い女性の姿を通して、その挫折や奮起、青春を描くアニメを制作してきた。『花咲くいろは』(2011年/TOKYO MXほか)では温泉旅館の中居、『SHIROBAKO』(2014年/TOKYO MXほか)ではアニメ制作スタジオ、『サクラクエスト』(2017年/TOKYO MXほか)は田舎の町興しチームを題材としてきたが、『白い砂のアクアトープ』は水族館が舞台になっている。
主人公の宮沢風花はアイドルグループの一員としてデビューし、やがてセンターポジションになれる機会が巡ってくるが、祖母のために必死な後輩の姿を見て、あえてそのチャンスを後輩に譲ってしまう。そういった経緯を知らないスタッフからは、やる気がないと見做されて仕事を減らされる冷遇に遭い、風花はアイドルを辞めざるを得ない状況に追い込まれた。故郷の岩手県へ帰ろうと駅に来た風花は、偶然見かけた観光ポスターに惹かれて沖縄へ向かい、あてどもなく歩くうちに『がまがま水族館』という廃館寸前の小さな水族館に立ち寄る。
P.A.WORKSの“お仕事シリーズ“は、職場の人々にも均等にスポットをあてる群像劇であり、ドラマの主軸になる主人公的キャラクターはいても、主人公の周囲の登場人物にも随時カメラが寄って、個々の人生を描き出す手法を採っている。例えば『SHIROBAKO』はアニメスタジオの制作進行として働く宮森あおいが主人公だが、彼女の高校時代の友人たちが社会人になってからの姿も並行して描き、自分の夢に辿りつけずに遠回りしている友達や、仕事につまずいて悩みを抱える職場の同僚にも時間を割いたドラマ作りがなされていた。最新作の『白い砂のアクアトープ』は目下、沖縄の水族館にやってきた宮沢風花と、その水族館の館長を自認する高校生の海咲野くくるという、2人の少女のダブル主人公という体裁で進んでおり、旅館やアニメ会社、観光協会など場所柄、多くの人が絡んでくる今までの“お仕事シリーズ”に比べると、人物配置はミニマムな印象を受ける。現時点では、メインはあくまでも風花とくくるという2人の少女だ。
アイドルの夢に破れた風花が沖縄に来たのは、故郷で励ます会の準備をしているという母の話にいたたまれなくなった逃避行の結果だし、『がまがま水族館』で働きたいと申し出たのも、働き口さえあればどこでも良かった彼女の後ろ向きな考えからだ。第2話でくくるから「うち(水族館)で働けなかったらどこに行くつもりだったの?」と問われた風花が、伏し目がちに小さな声で「どこでも……」と答えたように、どうしても水族館で働きたかったわけでもなかった。居場所はどこでも構わなかったようだ。だが、水族館の設備老朽化に伴って、夏の終わりと共に閉館を考えている祖父(本来の館長)の意向に反し、水族館を潰したくないと頑張っているくくるの心情を知ったことで、どこか消極的だった風花の考え方に変化が起きる。「私の夢は終わってしまったけど、誰かの夢を応援することはできるから……」 と、くくるの夢を手伝うために、業務に真剣に取り組むようになるのだ。