『TOKYO MER』音羽は敵か味方か 賀来賢人、保身と良心に揺れ動く芝居の妙

 『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系)第5話は政治案件。エレベーターが事故で急停止する。乗っていたのは、喜多見(鈴木亮平)の妹・涼香(佐藤栞里)と妊婦の立花あやの(河井青葉)、音羽尚(賀来賢人)に大物政治家・天沼夕源(桂文珍)。制御盤からショートした火花が引火し、煙がエレベーター内に充満する。一酸化炭素中毒による命の危険が迫る中でMERに出動命令が下される。

 「ただ偉くなりたかっただけですよ」。医師でありながら官僚になった理由を音羽は涼香に語る。TOKYO MER解体をもくろむ厚労省のスパイと、危険をかえりみず災害現場に飛び込む救急救命のエキスパート。敵か、それとも味方か。2つの顔を持つ音羽に対して、MERのメンバーだけでなく、私たち視聴者も態度を決めかねていた。エレベーターで起きた出来事は音羽に医師としての決断を迫り、彼自身の原点を思い起こさせた。

 「官僚っていうのは、みんな優秀なものなのよ。でもバカなことをしなくちゃいけないものなの。命令する政治家がバカだから」。赤塚都知事(石田ゆり子)の痛烈な皮肉だ。国民の手足となって働く官僚は、国民の代表である政治家に従わなくてはならない。その肝心の政治家がだらしないとどうなるか。都知事の国政進出への言及は言うまでもなく、民自党幹事長役・桂文珍の風刺の効いた演技が時勢への批評になっていた。

 医療と政治の関係に光を当てる『TOKYO MER』は、コロナ禍の現在においてタイムリーであることはもちろん、今後の医療ドラマにとって試金石となる作品である。災害現場で傷病者の把握から緊急手術までをワンストップで行うMERは医療の理想像を具現化した組織だ。しかし、都知事の専権によって設置されたため、法的な根拠づけに乏しい上、赤塚と白金厚労大臣(渡辺真起子)による政治家同士の綱引きや国と地方の対立も相まって、その存続は危うい均衡の上に成立している。

 こうした組織構造に加え、MERが新たに提起する医療の問題(その多くは災害現場で従来の限界を超えた医療行為を行うことへの危惧である)が、その都度、喜多見たちの前に立ちはだかる。音羽はこうしたダイナミズムの中心にいる人物である。エレベーターに乗り合わせた医師が2人の患者のどちらを救うべきかという倫理的問題は、医師が官僚であり、患者の1人が政治家だった場合に(さらに政治家自身は仮病でもある)、職業上の義務と良心の間のジレンマに変わる。命の危機が迫る密室内で、恥も外聞もなく保身と良心の両極を揺れ動く賀来の演技がリアルだった。

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