モー・ズーイーが語る、『親愛なる君へ』のテーマと使命 「生きて、世界と命を感じる」

 7月23日より公開された台湾映画『親愛なる君へ』。『一年の初め』や、『ヤンヤン』が国内外の映画祭で高く評価され、是枝裕和の『歩いても 歩いても』を中国語に翻訳したことでも知られるチェン・ヨウジエが5年ぶりにメガホンをとった作品だ。亡き同性パートナーの実家に住み続け、そこで彼の母親シウユーや息子ヨウユーの世話をみる主人公のジエンイー。しかし、病を患っていたシウユーの急死をきっかけに、パートナーの弟であり子供の叔父が、家を目当てにジエンイーが殺害したのではと疑いはじめる。調査は進められ、不利な証拠がいくつも出てきてしまう中で3人の血の繋がっていない家族がこれまでどう過ごしてきたか明かされていく。

 サスペンスと感動、絶妙なバランスで涙を誘う本作の主人公・ジエンイーを演じたモー・ズーイーに作品のテーマ、そして俳優としての使命について語ってもらった。彼の深い言葉を受けて、改めて本作を鑑賞したくなるはず。

モー・ズーイーが考える俳優の使命

――『親愛なる君へ』、感動的な作品でした。本作で初の金馬奨最優秀主演男優賞を獲得した気持ちから、話していただけますか。

モー・ズーイー(以下、ズーイー):チェン・ヨウチェ監督、そして『親愛なる君へ』製作チームすべてに対して、とても嬉しく思っています。この映画はみんなの動力で作られたものなので、僕が受賞したことは映画全体のチームメンバーに対しての功績であり光栄です。あと、一つ僕にとって大事なことは、僕も一人の俳優として、色々な先輩方からのインスピレーションを受けて勉強してきたので、先輩方、そして、世界中でコツコツ頑張っている俳優やパフォーマーたちに敬意を表す機会になったこともすごく大切に思いました。

――インスピレーションといえば、ジエンイーを演じる上で、何か役作りに参考した作品や、監督から観るように勧められた作品はありましたか? また、演出の助言など、なにか監督からの言葉で印象に残ったことがあれば教えてください。

ズーイー:まず、チェン・ヨウチェ監督から勧められたのは、山に遭難するストーリーの本です。映画の物語にも関わってくるので、そういう本を監督に勧められました。また、僕自身も読書が好きで、その時々に読んでいる本は直接映画に関係するわけではありませんが、ちょうどその本作の撮影時期に読んでいたのが『不安の本』という1982年に出版された本です。本を読むことは、僕にとって、自分と会話する、そして自分にさまざまな質問をすることなんですね。だから役作りとしては本を読むこと、そして、山にいっぱい登りました。山で気持ちを落ち着かせて、いろいろ考えたましたね。あとは、ピアノの練習もたくさん。

――映画などの映像作品ではなく、本という文字からのインスピレーションについては、何か理由があったりするのでしょうか。

ズーイー:僕にとって、映像と言うのは能動的ではなく、受動的なものなんですね。それに対して、文字、そして音楽、絵画などは能動的なもので。例えば、音楽とか絵画は割と抽象的じゃないですか。この画はなぜこの色を使っているのか、なぜこういう線を描いたのか、それを感じるものなんですね。なので、感じることによって、能動的に想像する、考える。文字にも、文字の感情とか温度とかは、創作者にとってすごく重要で。能動的に考えないと、創作の能力を失うと思っています。人間は、想像力と創造力、イマジネーションとクリエーションがあるじゃないですか。なので、それを活かせるために、文字や絵など抽象的なものから刺激を受けることが大事だと思っているんです。もちろん、映画やドラマ、映像作品を観るのが嫌いなわけではないです。ただ、そういった文字、絵、音楽から、能動的に思考することもとても大事で。僕がこういうところからインスピレーションを得るのは、あくまで僕のやり方ですがね。

――非常に納得感がありました。これまでのキャリアを振り返って、本作での役作りについて、出演してきた作品の中で、本作はどのような立ち位置の作品ですか? また、これまで演じたキャラクターの中ではどういう役柄だったのか、その中で挑戦的だったところがあれば教えてください。

ズーイー:まず、挑戦したことのひとつは、ピアノの練習です。実は、これまでピアノを学んだことがなかったのですが、以前出演した『台北歌手』というドラマのために学んだことがあったんです。そして今回もリン・ジエンイーを演じるために、もう一度、たくさん練習しました。ピアノの先生にはすごく感謝していますね。ふたつ目の大変だったことは、山登りのための体力づくりです。2~3000mの高い山で撮影することは、高山病になりやすいということと、重いものを背負わなければならなくて、毎日2時間ずつ往復で4時間かけて山を登らなければならないため、そこがチャレンジでした。『親愛なる君へ』は僕にとって、人生の、この段階の代表作になったんじゃないかと思っています。僕が考える俳優の使命は、“生きて、世界と命を感じる”。そして、世界中の人々の代弁をする。世界の人々の話を語ることが俳優の使命だと思っています。そして、さまざまな生き方をしている方に敬意を表す。本作でのキャラクターを演じることは、そういった俳優としての使命を果たせたのではないかと思っています。

――完成した作品を観たとき、最初に何を感じられましたか?

ズーイー:初めて映画館で観たときに感じたのは、映画の中で描かれている台湾の山、そして、雨、霧、雲がすごく綺麗だったことです。僕は、台湾の山、雨、雲がとても好きです。それが台湾の特色だと思っているから。こういった視覚的な美が、映画の中の人物の、抑えられた気持ちと苦痛と愛として、この台湾という土地によって全て抱きしめられて、理解されて、許されているように感じました。

――映像の美しさは観ている時に感じていましいたが、そこに深い意味がさらに重なって、より良い景色だったんだなと改めて思います。

ズーイー:ありがとうございます。

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