スティーヴン・スピルバーグとNetflixの契約が衝撃の理由 配信サービスを巡る未来とは

 多くの作品がそうであるように、アンブリンが製作した『シカゴ7裁判』もまた、劇場公開を延期するか、製作費回収のための売却かで選択を迫られていた。そして元々パラマウント・ピクチャーズのもと公開されるはずだった本作は、競売の結果、Netflixが5600万ドルで買い取った。なかなかの高額であり、しかもその後本作は“丁寧にプロモーション”された。コロナ禍で映画館の閉館が多いなか、経営された数少ない劇場では当初の公開予定日に公開し、その後の宣伝もアカデミー賞に向けて抜かりなく行われている。その良さを受ける側になったとも言えるスピルバーグ。加えて、1年以上続くコロナ禍によりアカデミー賞ノミネート作品から配信作品を除外するなんて言ってもいられない状況。改めて、ハリウッドが進んでいくにつれて、その必要性をスピルバーグも理解したのかもしれない。

 こうして、アンブリンはNetflixとパートナーシップを組み、Netflix用に毎年複数の長編映画を制作することが決まった。なかには、スピルバーグ自ら手がけるものもありそうだとか。なお、アンブリンはこれまで通りユニバーサルとの生産協定を維持し続けていく。

 今や配信サービス戦国時代。パンデミックでのし上がってきたHBO Max、テレビウォッチャー向けのHulu、マーベルのオリジナルドラマシリーズを間髪入れずに出し続けるDisney+。そして圧倒的な存在感とパワーを有し続けるNetflixだ。この競争の中、抜きん出ていくにいかに“誰と”組んでいくかがキーとなってくるだろう。すでにマーティン・スコセッシやデヴィッド・フィンチャー、ギレルモ・デル・トロといったベテランから、アルフォンソ・キュアロンにデイミアン・チャゼルといった近年オスカー像を手にした若手を囲うスピードが、Netflixはとにかく早い。そして、今回のスピルバーグということで、まるでインフィニティーストーンを次々にガントレットに収め、「著名監督×オリジナルコンテンツ」で勝負するNetflix。

『ブラック・ウィドウ』(c)Marvel Studios 2021

 対してDisney+は、同じくストーンを集めるようにして獲得していったマーベル、スター・ウォーズ、FOXといったスタジオの版権コンテンツで勝負している。先日、初めて『ブラック・ウィドウ』のプレミアアクセス興収を初めて公開した経緯もあり、Disney+は劇場公開と同時の配信にも手応えも感じている様子だ。なにせ日本での『アベンジャーズ/エンドゲーム』最終興収61億を週末の3日間、配信のみで稼いでしまったのだから。劇場興収も熱心なファンが週末に集まった以降、依然としてあるコロナの脅威を受けて客足は伸び悩んでいるという報道も見かける。ワクチン接種が進み、欧米の劇場再開が進んでいくものの、やはりハリウッドのニューノーマルとしてストリーミングの力は強固の一途を辿るのではないだろうか。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。InstagramTwitter

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