『まめ夫』『あのキス』『ドラゴン桜』 2021年春ドラマから浮かび上がるヒットの法則

 2021年の春ドラマはアツかった。

 オーソドックスな恋愛ストーリーから入れ替わりもの、人生に迷う若者の日常を描いた作品や受験サバイバル、社会問題に斬り込んだ意欲作まで、まさに各局百花繚乱。これほどバラエティに富んだドラマが同時期に放送された事例は稀ではないだろうか。

 7月スタートの夏ドラマに集中する前に、2021年の春ドラマで浮き彫りになった“ある傾向”について考えてみたい。

多彩なラブストーリー

 春ドラマ・21時台~23時台に放送された恋愛ドラマからピックアップするのは3作品。まずは表参道のシェアハウスで暮らす男女を描いた『着飾る恋には理由があって』(TBS系、以下『着飾る恋』)。インテリアメーカー勤務の主人公・真柴くるみ(川口春奈)が創業社長の葉山(向井理)とキッチンカーの料理人・藤野(横浜流星)との間で揺れる心情が軸となったドラマだ。

 『着飾る恋』で新たに生まれたパワーワードが“うちキュン”。キッチン用品や冷蔵庫を巧みに使い、イルミネーションや海といった非日常のシチュエーションがなくとも“キュン”を生み出すことに成功。魅力的な出演者たちの演技に加え『MIU404』(TBS系)、『グランメゾン東京』(TBS系)でもチーフ演出を務めた塚原あゆ子氏のディレクションが光る一作となった。

 同じくTBSの金曜22時枠で放送された『リコカツ』は、交際0日で結婚した編集者の水口咲(北川景子)と航空自衛隊員・緒原紘一(永山瑛太)の異なる価値観や生活習慣から生じる行き違いや、それらを乗り越え、2人がふたたびともに歩もうとする日々が描かれる恋愛コメディ。

 当初、日本でも大ヒットとなった韓国ドラマ『愛の不時着』(Netflix)に寄せてきた?と思わされた『リコカツ』だが、咲と紘一それぞれの両親の離婚問題や、紘一に思いを寄せる自衛隊員・一ノ瀬(田辺桃子)の“筑前煮女”ぶりなど、主軸以外のキャラクターの濃さも話題に。

 上記2作がオーソドックスな展開で好評を得た恋愛ドラマだとすれば、ぶっとんだ設定を丁寧な心情表現で展開させ“今期1番泣ける”ラブストーリーとなったのが『あのときキスしておけば』(テレビ朝日系、以下『あのキス』)。

 『あのキス』は飛行機事故で死亡した際におじさん(田中マサオ=井浦新)の身体に魂が乗り移った超売れっ子漫画家の唯月巴(麻生久美子)と、スーパーの青果担当・桃地のぞむ(松坂桃李)が織りなす入れ替わり恋愛もの。

 基本、コメディタッチのストーリーだが「愛する人の外見や性別が変わってもその気持ちを貫けるか」「ネットで誹謗中傷を繰り返す人物は一見普通で近くにいる」等、じつは深いところまで踏み込んだ一作(脚本=大石静)。入れ替わり設定でドラマを製作する場合、一瞬でも俳優から嘘臭さが見えると視聴者は醒めてしまう。が、井浦新が次第に麻生久美子に見えてきたり、桃地役・松坂桃李の真っ直ぐな演技がストレートに胸に響いたりと“純愛ラブストーリー”として見入った人も多いのではないか。最終回の切なさは今期1番だったかもしれない。

社会に斬り込んだNHKドラマ

 近年、良作ドラマを多数送り出しているNHK。今期は『今ここにある危機とぼくの好感度について』と『半径5メートル』が印象に残る。

 特に『ここぼく』は、非正規大学研究者によるスター教授の不正告発や、言論の自由問題、次世代博覧会(=東京オリンピックのメタファーと考えて間違いない)における大学側の隠蔽など、民放では放送が難しいファクターに斬り込んだ上に物語としても非常に上質(脚本=渡辺あや)。主人公の大学広報マンを演じた松坂桃李が、ヒーローではない普通の人間として組織を変えようと奮闘する姿はこの時代における希望にも見えた。

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