『イチケイのカラス』が追求する司法の可能性 木村拓哉主演『HERO』へのオマージュも

 弁護士あるいは検事が定番の「法廷もの」に出現したニューヒーロー。6月14日に最終回を迎える『イチケイのカラス』(フジテレビ系)には、裁判所の常識を超えた描写が頻出する。

 『イチケイのカラス』は東京地方裁判所第3支部第1刑事部(イチケイ)を舞台にしたリーガルドラマだ。刑事裁判での裁判官は、罪を犯した被告人を裁き有罪・無罪を言い渡すのが仕事である。本作の主人公・入間みちお(竹野内豊)は異色の裁判官だ。私服でひげを生やし、刑事ドラマのごとく事件現場に足を運んだかと思うと、法壇を降りて被告人に直接語りかける。

 通常、裁判官が事件現場に行くことはない。法律上は裁判所の現場検証も認められているが、実際に行われるのは稀である。有罪率99.9%の日本の刑事裁判では検察が綿密な捜査と確実な証拠を元に起訴するため、裁判所があえて捜査を行う必要が乏しいからだ。また証拠の確認を除けば、裁判官が法壇から降りることはあまりない。裁判官の評価はいかに事件を正確かつ迅速に処理したかによって決まる。裁判の迅速化が課題の昨今、一つの事件に時間と手間をかけることは、自分の首を絞める結果にもなりかねない。

 そもそも弁護士任官自体が年数件のレアケースであることも考えると、みちおはまさに異例づくめ。現実にありえない架空の刑事裁判官は、従来の裁判に対するカウンターの意味合いを持っている。それを端的に示すのが、同僚裁判官の坂間千鶴(黒木華)とみちおの会話だ。エリート街道を歩む千鶴は裁判所という組織の建前を代表する人間として登場するのだが、そんな千鶴の“常識”にみちおは疑問を投げかける。

 第4話ではAI裁判官が話題になった。「感情に流されず、客観的事実に基づき判断を下す。しかも大量に案件を処理し間違えない」。AI裁判官を裁判官の理想形と語る千鶴に、みちおは人にしか裁けない裁判があるのではないかと返す。AI裁判官の逆がみちおと考えるとわかりやすい。みちおによると、裁判官にとって大事なのは「悩んで悩んで悩みまくって、一番良い答えを決めること」。裁判は人間がするもので判決は被告人の人生を左右する。だからこそ最良の答えを求めて知恵を絞るのだ。

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