杉咲花×毎田暖乃の抱擁に滲む『おちょやん』の集大成 “帰る場所”があるという幸せ

 『おちょやん』(NHK総合)第22週「うちの大切な家族だす」は、ラジオドラマ『お父さんはお人好し』が10年以上続く長寿番組に、そして千代(杉咲花)がお母ちゃんとして愛されていくまでを描いた週だ。

 『お父さんはお人好し』は、大阪で果物屋を営む夫婦と12人の子供たちが巻き起こす喜怒哀楽のホームドラマ。千代との夫婦役を務めるのは漫才師の当郎(塚地武雅)。どんなトラブルをも笑いに変えてしまう当郎の機転の良さ、千代の柔らかな声と言葉遣いは生放送のラジオドラマに存分に活かされることとなる。

 ラジオドラマといえば、前期の朝ドラ『エール』でも後に伝説的ドラマとして語り継がれることとなる『君の名は』の制作が描かれていた。バナナマンの日村勇紀が音響効果担当の春日部として出演していた、と言えば思い出す人も多いはず。『おちょやん』でも『エール』同様に緊張で張り詰めたスタジオの空気が画面を通して伝わってくる。生演奏の楽器隊には、『おちょやん』の音楽を担当していたサキタハヂメが参加していたとのこと。

 1時間の特別番組となった第30話「1ダースのおかえりなさい」の中で脚本家の長澤(生瀬勝久)が盲腸で入院しながらも書き上げたのは、戦争未亡人となった乙子(根岸恵子)の元に夫の為雄(三好大貴)が帰ってくるというエピソード。12人の子供たちが代わる代わる「おかえりなさい」と声をかけていく。血の繋がりを超えた家族という関係性と帰る場所があるという幸せを、戦後の日本の家庭に伝える温かな物語だ。そこには戦争で肉親を亡くしたキャストの思いも見え隠れしている。千代を含めた今前を向いて歩き出そうとしている人々の背中をそっと押してあげたいという思いが詰まった長澤の集大成と言える台本だ。

 その日は栗子(宮澤エマ)、春子(毎田暖乃)と一緒にテルヲ(トータス松本)とサエ(三戸なつめ)の家族写真もラジオドラマを聴いていた。それからしばらくして、栗子がこの世を去ることとなる。そこで千代が春子に話を切り出すのは、養子となり本当の親子にならないかという提案。「春子のお母さんになりたい」ーー千代の思いに春子は膝を千代の方に向け、「うん、ええで」と返事をしながらも、「死んだお母ちゃんとお父ちゃんのことも好きなままでええ?」と千代に聞く。

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