『ここぼく』が告発する意味の捏造 松坂桃李演じる危機感のない主人公のリアル

 矢面に立つことと責任を取ること。似ているようで違う2つの間のどこかに問題の本質はあって、真実は今日も言葉の間をすり抜けてうやむやにされ、葬られる。

 土曜ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』(NHK総合)第2話。非正規研究員・木嶋みのり(鈴木杏)の内部告発を受けて、岸谷教授(辰巳琢郎)の論文不正に対する調査委員会が発足する。責任者の上田教授(国広富之)が倒れて後任となった澤田教授(池田成志)は「ミスター・レッドカード」と呼ばれる学内でも1、2を争う変人。論文不正問題は、澤田の暴走と新聞部の抗議によって思いもよらない結末を迎えた。

 「僕は何も聞かなかったし、見なかったことにします」と真(松坂桃李)。これだけ走り回っているのに、ここまで問題にコミットしていない主人公も珍しい。真だけではなく、告発したみのりも蚊帳の外に追いやられていた。問題は当事者の手を離れて、学内の政治問題に変質していた。論文不正があったかどうかではなく、不正をもみ消したい理事会と真実を追求する一部の教授及び学生の争い。広報担当の主人公は、表向きは板挟みになりながら右往左往する。矢面に立たされているのに、なぜだろう? どうにも危機感が伝わってこないのは。

 岸谷教授は「整えて」という言葉で、日常的に論文データの改ざんを指示していた。けれども、不正を追及されて「今度は言葉の意味の方を変えてきた」。「整えて」は、データの改ざんではなく「机の上を掃除しろ」という意味であると研究室内に周知徹底したのだ。「見下してる人間に対して想像力」のない権力者が使う常套手段。それは意味の読み替えと言葉の拡大解釈。つまりは「意味の捏造」だ。

 合法的に、ひそやかに。細心の注意をもって、重なり合った意味の隙間から反対の事実を立ち上げる言葉のレトリック。示し合わせたように、岸谷の通知メールは本人が書いたものではないので偽物と決める。自分たちを守る盾は攻撃の道具にもなる。地震で新聞部の部室が使えない、だから活動も停止。外堀を埋めるように、あくまで穏便に排除の論理を実装するのだ。

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