監督・プロデューサーの覚悟が詰まった『海辺の彼女たち』 胎児の心音に涙してしまう

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。東京、大阪、京都、兵庫に緊急事態宣言が発令され、近くの映画館が空いていない、という方もいると思いますが、この状況でも公開される映画はあります。十分な感染対策の上、足を運んでいただきたいということで、今週は、GWは自宅でお菓子作りの石井がポレポレ東中野ほかにて公開される映画『海辺の彼女たち』をプッシュします。

『海辺の彼女たち』

 映画にはさまざまなジャンルがあります。辛いときだからこそ笑いたい、現実が苦しいから夢のような世界に行きたい、甘いラブストーリーの世界に浸かりたい……映画を観る理由は人それぞれですが、どんなジャンルでも映画を観ることで新たな発見が生まれるのが映画の醍醐味だと思います。『海辺の彼女たち』は決して楽しい作品ではありません。本作を観て、笑顔が溢れる、という人はまずいないと思います。でも、多くの人が観るべき一作だとはっきりと言えます。

 映画は暗闇の中でカバンに毛布のようなものを詰め込んでいるシーンから始まります。暗闇の中で息を切らしながら走り出す3人の女性たち。手持ちカメラがグラグラと揺れ、ホラー映画のような闇がずっと続きます。一体彼女たちは何をしているのか。ここはどこなのか。開始から3分が過ぎた頃に、ようやく画面が明るくなり、舞台が日本であることが分かります。

 東京の地下鉄・某駅に佇む彼女たちの顔には生気はなく、何もかもに疲れた様子。東京の街はまったく華やかではなく、彼女たちに牙を向けているかのよう。電車のアナウンスも移動音も凶暴性を感じるほどです。電車、船を乗り継ぎ、彼女たちは辺り一面雪景色の港街にたどり着きます。

 彼女たちは技能実習生として来日したベトナム人であること、搾取された職場から逃げ出してきたこと、新たな職を斡旋するブローカーを頼りに港街にやってきたのでした。

 昨年大ヒットしたドラマ『MIU404』(TBS系)第5話「夢の島」でも描かれた、“ジャパニーズドリーム”を求めてやってくる外国人たち。しかし、彼らが夢見たような現実は日本にはなく(わずかでも機能しているところもあると信じたいですが……)、低賃金重労働で奴隷のように扱われています。

 スーパーで見かけるお手頃価格の魚も外食チェーンで安価で食べられる食事も、その理由をつきつめて考えたことはありませんでした。でも、本作を観た後では、彼女たちの現実と私たちの生きる当たり前が確かにつながっているのだとまざまざと実感せずにはいられませんでした。

 ここは自分が生きてきた日本なのかと疑いたくなるほど、暖かさのまるでない空気、途方もない現実を本作は突きつけてきます。かといって、政府や搾取する人間を悪者として描くことを本作はしません。だから観客自身も彼女たちに向き合うしかないのです。現在進行系で生まれている問題、コロナ禍の現在、さらに苦境に陥っているであろう技能実習生たちのリアルを提示する本作に、藤元明緒監督、渡邉一孝プロデューサーの覚悟を感じました。

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