フランシス・マクドーマンドはなぜ“みんなのお母さん"女優なのか 私生活と演じる役の関連性

 第93回アカデミー賞の主演女優賞の最有力候補として囁かれているのが、『ノマドランド』のフランシス・マクドーマンドだ。娘を殺された母の物語『スリー・ビルボード』でもオスカーに輝いた彼女だが、私はずっとフランシス・マクドーマンドと自分の母を重ねてしまう。『あの頃ペニー・レインと』の時からそうだ。彼女の演じてきた役に“母親”が多いということもあるが、マクドーマンドには不思議と母性的な魅力を感じて仕方ないのだ。なぜだろう。その答えのヒントは、出演した映画こそ知られている彼女の、あまり知られていないその私生活にあるのかもしれない。

『スリー・ビルボード』(c)2017Twentieth Century Fox

養子として育ち、舞台女優として活躍していた

 マクドーマンドは1957年の6月にイリノイ州のギブソンシティにて生まれる。そして彼女は養子としてカナダ人の夫婦に迎え入れられた。父親は牧師で、母親は看護婦。二人は彼女をピッツバーグの郊外で育てた。そしてベサニー大学で演劇を学んだあと、イェール大学の演劇学校スクール・オブ・ドラマに入学。競争率も高く、国内最高峰のここで再び演劇を学んだ彼女は1982年に卒業後、舞台の道に進んでいく。ちなみにこの時のルームメイトであった女優のホリー・ハンターも、同じくニューヨークの舞台に立つようになり、後にマクドーマンドとともに『ブラッド・シンプル』(1984年)に出演する。そう、『ブラッド・シンプル』といえばマクドーマンドのスクリーンデビュー作であるが、それと同時にコーエン兄弟で知られるジョエル・コーエンとイーサン・コーエンのデビュー作でもある。そして何を隠そう、マクドーマンドとジョエル・コーエンは現在、結婚36年の仲睦まじいオシドリ夫婦なのだ。

ジョエル・コーエンとの出会いと二人の恋物語

 二人の出会いはそれこそ、『ブラッド・シンプル』のオーディションだった。彼女はアビー役の選考に参加したが、あろうことか監督にもう一度来てくれと言われた時に、当時付き合っていた彼氏が昼ドラに初出演する(セリフは2つ)のを観ると約束したから「ノー」と断ったそうだ。しかし、その答えをますます気に入ったコーエンが彼女をアビー役に抜擢した。当時のことについて、ジョエル・コーエンはローマ映画祭にてこう語っていた。

「彼女の才能自体が役を勝ち取っていた。しかし、やはりその度胸の良さもいいと感じた。その悪気のなさをとても気に入り、まさにアビーにぴったりでした」

『ブラッド・シンプル/スリラー』DVD

 映画初出演作となる『ブラッド・シンプル』でマクドーマンドが演じたそのアビーとは、酒場の経営者である夫に愛想をつかし、従業員と不倫をしている妻。不貞をしているにも関わらず、何となく純粋さというか、先述のジョエルの言った通り悪気のなさが確かにあり、そんな彼女に二人の男が翻弄される。全体のストーリーはそれこそ行き違いが行き違いを呼ぶ、コーエン兄弟の定番スタイルがすでに1作目にして出来上がっているようなものだ。

 さて、マクドーマンドとジョエル・コーエンの距離は『ブラッド・シンプル』の撮影中に縮まった。きっかけはお互い本が好きだったこと。撮影現場となるテキサスのオースティンに、1冊しか本を持ってこなかったマクドーマンドが、ジョエルに何かお勧めはないかと聞くと、彼がジェームズ・M・ケインとレイモンド・チャンドラーの書籍を丸ごとプレゼントしたという。何から読めばいいかわからない彼女に、彼は『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(ジェームズ・M・ケイン)を勧め、数日後の夜、マクドーマンドから「この本について少し私の部屋で話さない?」と誘い、それから夜な夜な二人はホットココアを飲みながら文学について語り合いながら愛を育んだそうだ。文学で誘惑するなんて、素敵すぎるジョエル・コーエン!

 その後、1984年映画公開の年に二人は結婚。ちなみに、マクドーマンドの結婚指輪はジョエル・コーエンの前の奥さんがつけていたもの。もったいないし、気にしないからという彼女の潔さというか、サラッとした感じは映画の中で彼女の演じる役柄からも、しばし感じられる。

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