劇場新作の制作も決定 『マクロスF』はなぜ根強い人気を誇るのか?

 声優を務めた中島愛の影響も大きい。中島は80年代頃のアイドル歌謡に大きな影響を受けていることを公言しており、そのアイドル像について造形が深い。長年の研究による成果が、演技や歌唱の方向性も王道のアイドル像であるランカ役で発揮された。また大役を射とめ、大舞台へと駆け上がる様子などもリアルシンデレラストーリーとしてランカと重なり、ファンはランカ=中島愛を応援したい気持ちを強くした。

 もう1人の歌姫であるシェリル・ノームに話を振ると、こちらはランカとは対象的にかっこいい女性像を描き出しているように、その音楽性もロックサウンドの尖ったものが目立つ。また美顔器の広告でイメージキャラクターにシェリルが起用されるなど、実際の女性アーティストのような扱いだ。一方では弱さも併せ持つ等身大の少女としての一面もあり、単にかっこいい、強いだけでない女性アーティスト像を描き出した。

 歌唱を担当したのは、当時10代ながらも卓越した歌唱力、表現力を兼ね備えていたMay'nだ。力強い歌声は銀河の妖精と呼ばれるシェリルの存在を際立たせ、視聴者に大きな説得力を与えた。

 その歌声の魅力が最大に発揮されたのが“神回”と名高い20話の『ダイアモンド・クレバス』だ。激しくなる戦闘により、一般市民にも多くの犠牲が出る中で「あなた(ランカ)が希望の歌姫なら、私は絶望の中で歌ってみせる」と立ち上がり、『ダイアモンド・クレバス』を歌い上げる姿は、その後の展開も相まって視聴者に大きな衝撃を与えた。

 ランカとシェリル、2人の全く異なる魅力が合わさったからこそ、『マクロスF』は今でも高い評価を受ける作品となっている。そして多人数アイドルの時代を反映し、アイドルユニットを生み出した『マクロスΔ』へとバトンは繋がっていく。

 今回は歌唱面を中心に語っていたが、もちろんアクション、戦闘描写も魅力が多い。マクロスシリーズは高速で動き回る戦闘が注目を集める。巨大な空母であるマクロス・クォーターの圧倒的な火力描写や、戦闘機のVF-25 メサイアの俊敏な動き、そして可変機構にも注目してほしい。また、マクロスシリーズといえば三角関係などの恋愛描写だが、各キャラクターの関係の変化なども見ていて楽しい。

 ロボットアニメは戦争を語ってきた歴史がある。だが、それと同時にマクロスは戦争を止めるものは歌、つまり文化の力だと高々に語る作品だ。武力だけでなく、戦争を終わらせるために歌い上げるキャラクターたちと、それを応援する視聴者たち。この関係性は2010年から今に続く、アイドルアニメ全盛期の現代の先駆けとして、改めて注目しなければいけない。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。平成アニメの歴史を扱った書籍『現実で勇者になれないぼくらは異世界の夢を見る』(KADOKAWA刊)が発売中。@monogatarukame

■公開情報
『劇場短編マクロスF ~時の迷宮~』
2021年『劇場版マクロスΔ 絶対 LIVE!!!!!!』と同時上映
原作:河森正治・スタジオぬえ
監督/脚本/絵コンテ:河森正治
音楽制作:フライングドッグ
アニメーション制作:サテライト
(c)2021 BIGWEST/MACROSS F PROJECT

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