『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は丸くなった作品!? 劇中における暖かく優しい大人たち

ここからネタバレあり

 作中で14年の歳月が進んでもなお、中学2年生相応の外見と心のままの主人公・碇シンジは、14年分の年齢を重ねた知り合いたちに囲まれる。浦島太郎状態のシンジにつらくあたる者もいれば、理解を示し優しく見守る者もいる。後者の立場で顕著なのは、中学時代の友人である。彼らは学生時代の友人シンジを温かく迎えるが、年齢も外見も28歳の大人として描かれ、彼らなりの新しい生活を過ごしている。変わっていないのはシンジだけだ。前作『新劇場版:Q』のつらい現実に心が折れて自分の殻に閉じこもっている14歳の主人公は、大人になった友人らの思いやりに触れながら、現実に立ち向かう気力を徐々に取り戻すこととなる。

 放送当時に物議を醸したテレビシリーズのラスト2話でファンの批判を受けた庵野監督は、主要キャラクターの大半が死ぬ破壊的な旧劇場版をもって、アニメファンに「現実に帰れ」と呼び掛けた。作品や監督に向けられた悪意の文字が、本編中に実写で挿入される点から見ても、「アニメなんかに没頭するな」という痛烈なメッセージを込めたものと思える。しかし新劇場版として仕切り直した4部作の完結編『シン・エヴァ』の物語は、作中の登場人物1人ひとりの心の救済にスポットが当てられる。無慈悲に登場人物が死んでいった旧劇場版とは随分テイストも語り口も異なる。これは新劇場版に着手する直前の2002年に、庵野監督が漫画家の安野モヨコと結婚したことも影響があるだろう。

 人生の伴侶を得て生活様式が変わったことで庵野監督の考え方に変化が起き、それが前述の“監督が丸くなった”という観客の感触に繋がっているのではないか。現実に背を向け、言葉を失って無気力化したフィクションの主人公に何かをやれと強要することなく、自発的に立ち上がるまで静かに見守る、かつて同級生だった大人たち。穿った見方だが、それは『新世紀エヴァンゲリオン』という大きなコンテンツと、碇シンジに付き合い続けた、視聴者、ファンが投影されているのかも知れない。シンジもまた、自分に関りを持った人々に行き場を与える言葉を告げる。『シン・エヴァ』を観たことで、ようやく自分の中のエヴァンゲリオンに決着がついた人も多いはずだ。

■のざわよしのり
ライター/映像パッケージの解説書(ブックレット)執筆やインタビュー記事、洋画ソフトの日本語吹替復刻などに協力。映画全般とアニメを守備範囲に細く低く活動中。

■公開情報
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
現在公開中
企画・原作・脚本・総監督:庵野秀明
監督:鶴巻和哉、中山勝一、前田真宏
副監督:田部透湖、小松田大全
声の出演:緒方恵美、林原めぐみ、宮村優子、坂本真綾、三石琴乃、山口由里子、沢城みゆき
(c)カラー
公式サイト:https://www.evangelion.co.jp/final.html 
公式Twitter:@evangelion_co

関連記事