2020年の年間ベスト企画

年末企画:平井伊都子の「2020年 年間ベスト海外ドラマTOP10」 韓国、ドイツなどが底力を発揮

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2020年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、海外ドラマの場合は、2020年に日本で放送・配信された作品(シーズン2なども含む)の中から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクト。第11回の選者は、ロサンゼルス在住のライター・平井伊都子。(編集部)

1. 『秘密の森』シーズン2(Netflix)
2. 『アンオーソドックス』(Netflix)
3. 『クイーンズ・ギャンビット』(Netflix)
4. 『ドラッグ最速ネット販売マニュアル』(Netflix)
5. 『賢い医師生活』シーズン1(Netflix)
6. 『まぶしくて ー私たちの輝く時間ー』(LaLa TV、BS朝日など)
7. 『ラブ&アナーキー』(Netflix)
8. 『ふつうの人々』(STARZPLAY)
9. 『アップロード〜デジタルなあの世へようこそ〜』(Amazon Prime Video)
10. 『恋愛体質〜30歳になれば大丈夫』(ホームドラマチャンネル、BS朝日など)

1インチの字幕のバリアを乗り越え、世界を観るドラマ

『クイーンズ・ギャンビット』PHIL BRAY/NETFLIX(c)2020

 世界中の誰もが移動の自由を奪われた2020年。そして自宅での可処分時間が増え、ストリーミングの果てしない宇宙に迷い込んだ1年。アメリカ制作のドラマが少ないのは、日常の混沌があまりにも凄まじく、アメリカの優れた映像作品の「木を見せて森を想像させる」作風に少し疲れてしまったから。ドラマ内で世界観を完結させ、それ以上の詮索を促さない『クイーンズ・ギャンビット』は救いだった。

『まぶしくて ー私たちの輝く時間ー』JTBCホームページより

 ベスト10に入っている韓国の4作品は『愛の不時着』とも『梨泰院クラス』とも違う、韓国ドラマの現在を知るドラマ。米国ではHuluが配信している『まぶしくて』は韓国ドラマが得意としてきたファンタジー設定のラブコメで、『母なる証明』(2009年、ポン・ジュノ監督)でウォンビンのお母さんを演じていたキム・ヘジャ(79歳)が、タイムリープしてしまった25歳の女子を演じる。前情報はこれだけで十分。このテーマをこの形で描く制作者がいて、それを演じきる役者がいることが韓国映像業界の底力だ。『エクストリーム・ジョブ』(2019年、俳優と同姓同名のイ・ビョンホン監督)の脚本・監督による『恋愛体質』(米国では楽天Vikiが配信)は、タイトルやメイン写真で視聴者層を狭めてしまうのがもったいない意欲的な作品。韓国俳優たちが得意とするメソッドアクト的感情表現を封印し、秀逸なセリフの掛け合いとひょうひょうとした演出で描く。1位の『秘密の森』は大傑作のシーズン1を軽々と超え、検察改革を軸に長らく争点となっている捜査権問題に切り込む。さらに現在は、政権と対立する検察総長の職務執行停止・懲戒という大混乱の最中にあり、まだ制作決定もしていないシーズン3への期待は募るばかり。『賢い医師生活』の順位が低いのは、2021年放送予定のシーズン2が超えてくるのを確信しているから。『賢い医師生活』の制作陣はそういう人たちです。

『アンオーソドックス」(c)Anika Molnar/Netflix

 2位と4位はドイツ制作のドラマ。『秘密の森』にも通じる複雑に絡まる謎を解くミステリー『ダーク』や『バイオハッカーズ』(ともにNetflix)もおもしろく、いま最も注目すべきドラマ制作国だ。ドラッグ版『ソーシャル・ネットワーク』とも言える『ドラッグ最速ネット販売マニュアル』は、引用されるポップカルチャーネタやテックネタが世界標準で、世界190カ国に配信されることを的確に意識した作品。NetflixのUIを逆手に取った演出もある。ブルックリンに存在するオーソドックス・ジュー(超正統派ユダヤ教)コミュニティの少女がベルリンへ逃走する『アンオーソドックス』は、原作者・制作者の熱意が画面から溢れ出る。事実や科学よりも信仰を優先する危うさ、歴史の過ちが現代に受け継がれ、時間とともに変異した悲劇を生む矛盾。言い方が難しいが、ドイツのクリエイティビティがずっと抱えている“ある意識”に、1つの変換点をもたらしたのではないかと思う。

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