二階堂ふみ演じる音の生き様から学ぶもの 『エール』が“負の感情”を描き続けた意図
第21週終盤は、音が、夢の始まりである教会で、裕一の作った歌を歌い、自分でその教会の扉を閉めて終わる。第22週以降の音は、それで自分の夢に折り合いをつけたかのように、娘・華(古川琴音)の見合いを画策し、寝転がりながら饅頭を頬張り、美味しいお菓子に嬉々とする、「可愛らしいオバサン」と化していく。第4週における、音の母・光子(薬師丸ひろ子)の「夢を叶える人は、一握り。あとは、人生に折り合いつけて生きていくの」という台詞を反芻せずにはいられなかった。
でも、その変化は否定すべきことではない。「負けを受け入れるから人は成長したり、違うことに挑戦できる」と第12週における幽霊の安隆が言っていたように。彼女はその「支える側」としての人生を受け入れ、心から幸せに全うしたのである。
『エール』は戦争を描いたが、戦後、絶望のその先を、たくましく生きていく人々の姿も興味深く描いた。裕一は、池田(北村有起哉)と共に『君の名は』をはじめ数々のラジオドラマや舞台をヒットさせる。軍人と貞淑な妻だった智彦(奥野瑛太)と吟は、戦後、美味しいラーメン屋の主人と妻として、戦災孤児だったケン(松大航也/浅川大治)を養子に迎え、暖かい家庭を築いた。岩城の遺志を引き継いだ五郎(岡部大)と梅は、戦争に使われる馬具ではなく、平和の象徴とも言える野球用のグローブを製作することを決めた。
人は一筋縄ではいかない生き物だ。常に自分にないものを羨み、ドロドロした感情の中で生きている。そういった人間たちが作っている世の中はなおのこと、綺麗ごとばかりではない。苦難に満ちている。
それでも、人はしぶとい。どん底の先に、希望を見つけることができる。しなやかに、いかようにも変わることができる。決して完璧じゃない登場人物たちの生き様はそれだけで、コロナ禍というまだ誰も経験したことのない災難と向き合っている我々への、型破りな「エール」なのである。
■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。
■放送情報
連続テレビ小説『エール』総集編
NHK総合
12月31日(木)前編 14:00〜15:23
12月31日(木)後編 15:28〜16:56
NHK BSプレミアム
12月29日(火)前編 7:30〜8:53
12月30日(水)後編 7:30〜8:58
NHK BS4K
12月28日(月)前編 9:45〜11:08
12月28日(月)後編 11:08〜12:36
出演:窪田正孝、二階堂ふみほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/