原作を時代性から解放 『ジオラマボーイ・パノラマガール』は“あの頃”を振り返る作品ではない

 また本作で興味深いのは、物語の舞台を80年代から現代に変更したことだ。といっても、現代であることをそれほど意識させない。登場人物たちは携帯を使わないし、小沢健二『LIFE!』のレコードを貸し借りしている。いつの時代かわからないあやふやな状態で物語が進んでいき、過去と現代のイメージが融合したファンタジックな物語空間を生み出す演出は、井之頭公園を「主人公」にした『PARKS パークス』に通じるところもある。そんななか、本作の舞台が現代であることを強く意識させるのが、東京オリンピックに向けて再開発が進む東京の風景だ。瀬田監督は変わりゆく東京の姿を、思春期のなかで変わっていくハルコやケンイチの心象風景と重ね合わせた。映画のクライマックス、ハルコの誕生パーティーのシーンでは、高層ビルの窓から見える東京を背景に二人の想いがぶつかりあう。

 80年代と強い結びつきを持った原作を時代性から解放して、刻々と変化していく思春期の少年少女の物語として新たな息吹を吹き込んだ本作は、「あの頃」を振り返る作品ではない。スクリーンの中で、いつの時代にもいるジオラマボーイやパノラマガールに出会えるだろう。

■村尾泰郎
音楽と映画に関する文筆家。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などの雑誌や、映画のパンフレットなどで幅広く執筆中。

■公開情報
『ジオラマボーイ・パノラマガール』
全国順次公開中
脚本・監督:瀬田なつき
出演:山田杏奈、鈴木仁、滝澤エリカ、若杉凩、平田空、持田唯颯、きいた、遊屋慎太郎、斉藤陽一郎、黒田大輔、成海璃子、森田望智、大塚寧々
原作:岡崎京子『ジオラマボーイ・パノラマガール』(マガジンハウス刊)
配給:イオンエンターテイメント
2020年/日本/105分/カラー/シネスコ/5.1chデジタル
(c)2020岡崎京子/「ジオラマボーイ・パノラマガール」製作委員会
公式サイト:gbpg2020-movie.com
公式Twitter:@gbpg2020_movie

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