今期もっとも観るべきドラマは? 評論家が選ぶ、2020年秋の注目作ベスト5

 2020年最後のクールとして現在放送されている秋ドラマ。新型コロナウイルスの影響により4月スタート予定だったドラマはほとんどが延期を余儀なくされたが、6月、7月と放送がはじまると『半沢直樹』(TBS系)など一大ブームを起こした作品も生まれた。ようやくどのドラマの放送回も足並みが揃い、各局、力の入った作品が並ぶが、今期観るべきなのはどのドラマだろうか。ドラマ評論家の成馬零一氏に、秋ドラマから注目すべきタイトルのベスト5を選んでもらった。(編集部)

1.『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(日本テレビ系)

『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(c)日本テレビ

 『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(日本テレビ系)は水曜夜10時から放送されている恋愛ドラマ。脚本は連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『スカーレット』(NHK)の水橋文美江。物語は緊急事態宣言が発令された2020年4月からはじまる。

 産業医の大桜美々(波瑠)が自粛期間中にゲームの中で知り合った「檸檬」という顔も経歴も知らない相手に恋する姿を描いたラブコメだが、一番の特徴は登場人物が外出時に、ちゃんとマスクをしていること。緊急事態宣言によって自粛期間だった4月~5月と現在(10月以降)の空気の違いを丁寧に掘り下げており、今クールのドラマの中で、もっともコロナ禍を意識した作品となっている。

2.『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジテレビ系)

『姉ちゃんの恋人』(c)関西テレビ

 『姉ちゃんの恋人』は、火曜夜9時から放送されている恋愛ドラマ。主演は有村架純、脚本は岡田惠和という朝ドラ『ひよっこ』(NHK総合)の2人が再集結。岡田が得意とするコメディテイストの物語に仕上がっている。

 優しいやりとりの裏側で、不安の気配が見え隠れするというのが岡田作品の特徴だが、その背景にあるのは、コロナ禍の空気と、主人公の安達桃子(有村架純)が体験した両親の死で、桃子が恋心を抱く吉岡真人(林遣都)の秘められた過去も不穏なムードに拍車をかけている。劇中のコロナ禍の描写は、半年前に大変なことが世界中で起こったが、今は落ち着いているというニュアンス。コロナという言葉は意図的に避けており、登場人物もマスクをつけていない。(ただ、回想シーンの職場の場面ではマスクを付けていた)。コロナという言葉を使わずにコロナ禍を描く見せ方は『2020年 五月の恋』(WOWOW)でも展開された距離の取り方で、岡田らしい物語の抽象度を高める作劇手法だ。

 コロナ禍の描写は浮きあがって見えるが、今後、恋愛劇とうまくリンクしていけば、より面白くなるのではないかと思う。

3.『共演NG』(テレビ東京系)

『共演NG』(c)テレビ東京

 『共演NG』は、テレビ東京系で月曜夜10時から放送されている中井貴一主演のドラマ。元恋人同士やライバルといった「共演NG」の俳優たちが共演する恋愛ドラマの内幕をコミカルに描いている。企画は秋元康。演出・脚本は『モテキ』(テレビ東京系)の大根仁がつ務めている。

 80年代にフジテレビで作られた業界ドラマのテイストで、近作では中井が主演を務めた『最後から二番目の恋』(フジテレビ系)に近い。こういうドラマがテレビ東京で作られたこと自体は面白いのだが、テレビ業界関係者の内輪ノリが強いため、観る人を選ぶところはある。コロナ禍の描写は、記者会見やドラマスタッフの見せ方に現れている。印象としては演出家の井上剛がコロナ禍を舞台に制作したドラマ&ドキュメント『不要不急の銀河』(NHK)に近い。どちらも自己言及的な作品で、コロナ禍のドラマ現場を撮ったセルフドキュメンタリーにも見える。

 この3作はコロナ禍を舞台にしたドラマだが、アプローチには微妙な違いがある。一番の差は、登場人物がマスクをつけているかどうかで、『#リモラブ』以外は、設定によって使い分けているという印象。おそらく、物語上の必然性がない限りは俳優がマスクを着用しないという方向で今後のドラマは作られるのだろう。時代劇におけるお歯黒に近い見せ方となっており、「ドラマだから省略する」という形に落ち着きそうだ。

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