美村里江「映画は遠い存在だった」 青山真治監督と語り合う『空に住む』で得たもの

 『EUREKA ユリイカ』『東京公演』の青山真治監督が、『共喰い』から7年ぶりに放つ長編映画『空に住む』が10月23日から公開。作詞家・小竹正人による同名小説を基に、孤独を抱えたヒロインと、彼女を取り巻く人々の葛藤を見つめたドラマだ。叔父夫婦の住む都心の高層マンションに越してきたヒロインの直実を多部未華子が演じて主演を務める本作で、不自由のない暮らしのなかで、満たされずにいる叔母の明日子に美村里江が扮している。

 最近も『MIU404』(TBSテレビ)のゲスト出演で深い印象を残した美村と、そんな美村を大河ドラマ『西郷どん』(NHK総合)で、「この人、上手いぞ!」と感じて仕事をしたかったという青山監督が対談。「映画の演出はキャスティグが80%」といった話や、舞台であるタワーマンションと、直実の働く書籍編集部のある古民家の対比など、興味深い話が次々と飛び出した。(望月ふみ)

女性は、自分の論理を持っている

――鑑賞後、自分自身について見つめたくなる作品でした。本作は、青山監督がオファーを受けて撮られた映画とのことですが、「ここを切り込めば自分の作品になる」と思われた部分はどこですか?

青山真治監督(以下、青山):女性であり仕事をしている人が主人公であること、そしてまた、女性同士の会話を撮って、そこから生まれるものを掬い取れたら、何か突破口が見いだせるんじゃないかと思いました。男どもの勝手な話というのに、僕自身がうんざりしていたので(笑)。

――女性が主人公の作品に取り組んだことで、女性の「ここが興味深い、ここが面白い」と感じたことは?

青山:今回、美村さんや多部さん、岸井(ゆきの)さんと一緒にお仕事をさせてもらうなかでも、現場で、それぞれの論理が動いているのが見えました。案外男だと、合わせよう合わせようとする感じが出てくるんです。それを女性たちは、「とりあえず私はこうやってみる」という形がバンバン出てくる。それが面白かったですね。

――確かに女性は学生時代から、一緒にいるようでいて、自分の論理があるかもしれません。

青山:そうだと思います。

――男性のほうがひとつの論理のもとに群れているというか。

美村里江(以下、美村):タテ社会ですよね。このなかで俺はどの役割か、みたいなことを考えて動いているのがオスで、我が家を自分のなかに持っているのがメス、といいますか。

青山:まさにその通りだと思います。

明日子は“ファントム不幸”な人

――美村さんが演じた明日子もとても気になる女性でした。最初は憧れのセレブ女性に映るのですが、次第に違和感が出てくる。

美村:私自身はどちらかというと、親戚づきあいには理性的に距離を守っていたいタイプで、そんなに踏み込んできてほしくないんです。だから明日子のように、直実のスペースにどんどん入ってくるような人は苦手なんです。

青山:あはは。

美村:脚本を読んだときには、「すごい人だな、苦手だな」と。でも同時にラッキーだとも思いました。苦手だったり、自分から遠いと感じたときのほうが、興味が湧くから。自分に近いとか、分かると思った時点で、何か手からこぼれてしまうというか。

青山:ほお。そうなんですか。

美村:ええ。だから明日子に関しては、いろいろ揉んで、監督からも自由にやらせていただいたので、直実がこんな感じと思ったら、その直実が嫌がるようにやってみようかなとか。明日子は、人生経験の高さで達観しているところもありながら、笑顔の裏で誰にも言えていない部分もある人。でも、私が思う明日子の悩みというのは、“ファントム不幸”(まぼろしの不幸)なんです。

――ファントム不幸?

美村:自分が作っている不幸。親が亡くなったとか、誰の子か言えない子どもを身ごもっているといった、直実ちゃんや愛子ちゃんのような大きなものではない。豊かななかだから作り出してしまったというか。現代は幸せの形がたくさんありますが、逆にそれで迷っている人もいるはずで、そうした部分が明日子からは見えます。

――途中は苦手だなと思うのですが、最終的に嫌いになれないというか。明日子の気持ちも分かります。

美村:そうなんですよね。よりよく生きたいと思ってはいるんです。よりよく生きたい、いい人になりたい、いい叔母でいたい、いい妻でいたいと思っている。けれど、何か足りない。自分の限界と、「なんかもうちょっとなぁ」とまだ持て余している自分がいて、その「もうちょっと」が埋まらない。そうした焦燥感みたいなものは、もしかしたら多くの人に共感していただけるのかもしれません。

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