森崎ウィン×高城れにが届けた未来への希望 “今”とリンクした『カノブツ』最終回
玲が本当に描きたかった『氷の武将』の最終回。ラストは主人公の「また会いましょう。未来で」という言葉で締め括られていた。それはそのまま、“彼女が成仏できない理由”にも繋がる。結論からいえば、玲は幽霊ではなかった。手の病気で漫画を描けなくなった彼女は、父の佐古が作ったコールドスリープの中に入り、希望を未来に託したのだ。「生きてればいつかは希望が見つかる」。そんな父の言葉を、玲は皮肉にも生き霊となった後に実感することになる。エーミンと出会い、人と交わる現実の中で彼女は希望を知った。誰かを想う気持ちが部屋の温度を下げる代わりに、コールドスリープで眠る玲の身体に体温を与える。どんどん部屋の温度が下がっていったのは、玲のエーミンに対する気持ちが深くなっていった証拠だった。
“なぜ、本当は生きているという事実を玲は伝えてくれなかったのか”。その答えを知るためにエーミンは漫画を描き続けた。誰のためでもなく、自分のために。タイトルは『彼女が成仏できない理由』。私たちが観てきたエーミンと玲の物語だ。漫画を描くときに意識すべき“起承転結”。それを本作に当てはめれば、“起”は玲とエーミンが出会ったこと、“承”はふたりの距離が縮まるまで、“転”は楽しい日々が続くことを願っていたエーミンに否応なく訪れた玲との別れになる。……とすれば、この物語にはまだ“結”が残っている。
1年後、エーミンは『彼女が成仏できない理由』で漫画家デビューを果たしていた。担当の編集についた中路に急かされ、南貝荘で一人漫画の完成を目指しているエーミン。そこにコールドスリープから目覚めた生身の玲が訪ねてくる。ただ「おかえり」「ただいま」と微笑み合い、ふたりは初めて手を繋ぎ触れ合った。
本作は外国人留学生と幽霊のラブコメという斬新な設定だったが、不思議とエーミンと玲の関係に今を生きる私たちの姿を重ねた人たちも多かったのではないだろうか。新型コロナウイルスが猛威を振るい、突然当たり前の日常が失われた今年。会いたい人には会えず、緊急事態宣言が解かれた今も人との関係を隔てるマスクやフェイスシールドが必要とされている。そんな私たちに本作が届けたのは、“未来への希望”だった。会いたい人に直接会えず触れることが叶わなくても、心の繋がりが失われたわけではない。エーミンと玲がひたすら言葉を通じて思いやってきた姿は、確かな希望を感じさせてくれた。いつか何の障害もなく、ふたりのように触れ合える日が訪れますように。私たちの物語はまだ、完成していないのだから。
■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter
■放送情報
よるドラ『彼女が成仏できない理由』【全6回】
NHK総合にて、10月23日(金)25:00〜25:30最終回放送(再放送)
出演:森崎ウィン、高城れに(ももいろクローバーZ)、和田正人、村上穂乃佳、中島広稀、 白鳥玉季、高橋努、ブラザートム、古舘寛治ほか
作:桑原亮子
制作統括:三鬼一希
プロデューサー:増田靜雄
音楽:トクマルシューゴ、王舟
演出:堀内裕介、新田真三
写真提供=NHK