原田泰造、“はぐれ刑事”を引き継ぐ? さまざまな作品で魅せる抜きんでた主演力

 藤田まことさん主演の大人気長寿番組『はぐれ刑事純情派』(テレビ朝日系)が帰ってくる。主演のバトンを引き継ぐのは、原田泰造だ。お笑い芸人が俳優に挑戦する例は珍しくないものの、彼はそれとは訳が違う。今回の『はぐれ刑事三世』(テレビ朝日系)だけでなく、これまでも数多くの作品で主演として抜擢され、大河ドラマにも3作出演を果たしている。

 スタイルも良く、顔の造形もしっかりとしていて美形でなくとも“舞台映え”し、“男臭さ”を感じさせる出立ちに加えて、声質も良い。そして彼が歯を出してニッと笑うチャーミングな笑顔には人を惹きつける力があり、その憎めなさ、人たらしっぷりは天性のもののように思われる。

 彼の最大の魅力は何と言っても“隙があること”、言い換えれば“隙を作れること”ではないだろうか。お笑い芸人としても、そもそも「ボケ担当」ということもあるだろうが、誰かをけなしたり貶めたりして笑いをとっているところを見たことがない。バラエティ番組でも、ゲストの不思議なキャラクターをいじるというよりは、興味・関心から質問を重ね、一緒に自分もボケる誰も傷付かないスタイルをとっている。彼は「否定」から入ることがなく、常に「受容」の姿勢だ。リズムを刻み即興でダンスや替え歌を真顔で披露することの多い彼は、確かに“喋り”で笑わせているというよりは“身体表現”で笑わせていると言えるかもしれない。

 “隙”があるからこそ共演者との間に予定調和ではない“間合い”や“掛け合い”を生み出せる。『奥さまは魔女』(TBS系)では米倉涼子演じる人間界にやって来た魔女と結婚する広告代理店マンを好演。突拍子もない設定にあっても、原田の持つ“どこにでもいそうな普通っぽさ”“会社員ぽさ”があるからこそ成立するストーリーだった。

『ミッドナイト・バス』(c)2017「ミッドナイト・バス」ストラーダフィルムズ/新潟日報社

 その“隙”ゆえの優しさから、厄介に巻き込まれそれを引き受ける、あるいは他人から大切なものを“託される”役どころというのも彼の得意とするところである。『水曜日の情事』(フジテレビ系)での作家・前園耕作役や、彼の主演映画『ミッドナイト・バス』で演じる新潟〜東京間を運行する長距離深夜バス運転手・高宮利一役が挙げられるだろう。どこにでもいそうなバツイチ中年男性を演じつつ、東京では再婚を考える年下の彼女が待っている「男の顔」、歯車が狂ってしまった家族がいる新潟では「父親の顔」という2つを行ったり来たりする姿が淡々と、本当に静かに淡々と描かれる。

 また、映画『ボクの妻と結婚してください。』はその最たる例だと言える。余命半年の主人公が自身の妻の再婚相手を探すという設定だが、その再婚相手として白羽の矢が立ったのが原田演じる伊東正蔵だった。近くで誰かの報われなさや想いを目の当たりにし、やがて共鳴し、結果手を差し伸べる役どころ。そして、相手に「本当にそれでいいのか?」と覚悟を引き出し、問う重要な役柄でもある。毎回言葉少なな役どころが多い中で、彼の真っ直ぐに相手を見据える視線が印象的だ。原田の演技力の真髄は、この役の向こう側にある「人間臭さ」や「人間的魅力」を押し付けがましくなく、同情を煽ったりもせずに自然に見せてくれるところだろう。だからこそ、同居する切なさもやるせなさも滲ませられて、芸人で珍しく色気を宿している数少ない一人だと思う。

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