『半沢直樹』と『梨泰院クラス』、日本/韓国のヒットドラマで“土下座”を描く背景とは?
『梨泰院クラス』では、前進するための儀式的意味合いを持った「土下座」
一方、第1話からずっと「理不尽な要求」で何度も主人公が土下座を要求されるのが、韓国ドラマ『梨泰院クラス』である。
警察官を夢見る、正義感の強い高校生パク・セロイ(パク・ソジュン)は、転校初日に、クラスメイトがいじめられているのを、見て見ぬフリができず、制止する。そこからケンカになってしまうが、セロイが殴ったいじめっ子は、街の権力者で、セロイの父が勤める外食産業最大手の長家(チャンガ)の会長、チャン・テヒ(ユ・ジェミョン)の長男、グニョン(アン・ボヒョン)だった。
学校は街の権力者である長家会長の言いなりで、そこでセロイは土下座を要求されるが、謝罪する理由はないとして、きっぱり拒否。父はそんな息子を誇らしいと言ってくれたが、自身は仕事をやめ、セロイは退学になる。
しかも、理不尽にもそれが長家と戦いの始まりだった。心機一転、店を開くことにしたセロイの父だが、グニョンの運転していた車にひかれ、命を落とす。しかも、それを知った父・長家会長がお金で解決してしまう。
ある日、グニョンのせいで父が亡くなったことを知ったセロイがグニョンに殴りかかり、結果、殺人未遂の罪で服役することに。そこでもセロイは、長家会長に土下座を要求されるが、やはり拒否する。
服役中に長家への復讐を誓い、いつか長家会長に「土下座」をさせるために地道な勉強と準備・努力を重ねるセロイ。しかし、その後も何度も何度も長家の圧倒的権力・経済力・卑怯な手段により追い詰められ、また立ち上がり……という日々が繰り返される。
正直、なぜイイ年した男、しかも外食産業最大手の会長ともあろう人間が、ここまで一青年の「土下座」にこだわるのかは理解に苦しむほどではある。
しかし、ある意味孤独で、誰も信じず、頼れず、常に「力」だけですべてをねじ伏せてきた権力者にとって、それに屈することのない若者・セロイは得体の知れない脅威を感じる存在だったのだろう。
セロイもまた、真っすぐすぎて、青すぎるために、形式的・表面的な「土下座」を受け入れることができない。それは命を奪われた父のためでもあり、自身の意地と誇りのためでもあった。
しかし、壮大な時間を費やしてきた復讐劇の最終目標であった「土下座」が、終盤にあっさりと実現する。それは、仕事の大事なパートナーであり、いつしか愛する人にもなっていた女性・イソを会長の息子に拉致されたことにより、その所在を聞き出すための「土下座」だった。
父の死をめぐる復讐と自身の誇りのために、どんな不幸な目に遭い続けても決して受け入れることができなかった「土下座」を、大切なものを守るもののために選択したセロイ。その是非はともかく、それは彼が大人になることへの「通過儀礼」でもあった。
さらに、そこに意味を見出さなくなった以上、セロイが最終目標としてきた長家会長の没落による「土下座」もまた、何の意味もないものに変わっている。