『妖怪シェアハウス』が描いた抑圧からの解放 『アナと雪の女王』にはなかった“自由”の在り方

 澪は最終回で、角を生やし、牙を向きながら机に向かい、「食べたいものを食べて何が悪い」「結婚できなくて何が悪い」「家族が作れなくて何が悪い」「常識なんてくそくらえ」「生きたいように生きて、何が悪い!」と言いながら自分の思いを文章にしたためる。そのことで、このドラマにとっての「角」とは、単に「怒り」だけでなく「自由に生きること」や「何かに夢中になること」も示しているとわかるのだ。

 このメッセージは、怒りを覚えたり、何かに夢中になったり、恋愛や結婚を幸せへの最適解という常識に疑問を感じていた多くの女性たちに向いている。そして、「角」を隠すということは、抑圧を意味しているのだとわかるようになっていた。このシーンを見て、私は『アナと雪の女王』を思い出してしまった。

 『アナと雪の女王』は、ある王国の長女のエルサに特殊な能力があり、その能力によって妹のアナを誤って意識不明にさせてしまったことから、能力を抑えるための手袋をつけて暮らすようになるという話である。「角隠し」と同じように、女性の能力や怒りは隠すべきという考えが世界中にあったのだとわかる。

 エルサは最終的に、その能力を「真実の愛」によってコントロールできると知り、手袋という抑圧の象徴を手放すのだが、その抑圧の解き放れ方は、自分が自分をコントロールしている限りのことであり、その能力の使い方も、自分のためというよりは、家や王国のためという面もあり、限定的であったようにも感じる。

 『妖怪シェアハウス』の澪は、誰のためでもなく、自分のために自分を解き放った。そして、澪自身も彼女を救ってくれた妖怪たちの仲間になった。

 そう考えると、このドラマの中の「妖怪」とは、決められたレールの上を歩き、多数決的に「普通」といわれる生き方をしている人ではなく、そこから逸脱はしていても、自由に充実した人生を生きる人のことを意味しているのかもしれない。最後の最後に「(澪の)角を見たものは幸せになれる」という一言が、この世の中でまだまだ自分を抑え込んでいる人の背中を押しているように思えた。

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■配信情報
『妖怪シェアハウス』
TELASAにて全話配信中
出演:小芝風花、松本まりか、毎熊克哉、池谷のぶえ、内藤理沙、大東駿介、味方良介、柾木玲弥、宮本茉由、大倉孝二
脚本:西荻弓絵、ブラジリィー・アン・山田、綿種アヤ
演出:豊島圭介、山本大輔
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
プロデューサー:飯田サヤカ(テレビ朝日)、宮内貴子(角川大映スタジオ)
制作:テレビ朝日
制作協力:角川大映スタジオ
(c)テレビ朝日
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