2020.08.16 12:00

渡辺大知×奈緒×玉田真也が語り合う『僕の好きな女の子』「“特別な時間”を感じてもらえたら」

文・取材＝石井達也、写真＝加治皓希

渡辺「どんな言葉を伝えたい人に届けるか」

ーー終盤、美帆の彼氏として登場するのが仲野太賀さんです。3人の関係性も絶妙でした。

渡辺：太賀くんのいいヤツ感よかったですよね。

奈緒：（突然笑い出す）

ーー奈緒さんどうしたんですか（笑）。

奈緒：太賀くん演じる美帆の彼氏が、加藤くんと初めて会ったときの自己紹介で、「“石油”の仕事やっています」と言っていたのを思い出しちゃって（笑）。

渡辺：確かに“石油”っておかしいね（笑）。

奈緒：パワーワード（笑）。

玉田：あれはね、実際に石油関係で働いている大学の友達がいたんですよ。これは僕の実体験でもあるんですが、加藤は脚本家という仕事でずっとふわふわしている感じなんです。加えてミホとの関係もふわふわしている。でも、それとは正反対のカチッとしている相手ということで、石油が出てきたんですよね。

渡辺：そうだったんですね。加藤としては、美帆が自分と全然違うタイプの男を連れてきたら、「俺じゃなかったんだ」とある意味諦めることができたと思うんです。でも、まとっている空気は似ているというか、親しいものがある。それなのに、石油の仕事をしているカチッとしている人で自分にはないものを持っていて。

玉田：正反対のキャラクターではないからね。

渡辺：加藤自身も仲良くなれそうな感じだからこそ切ないですよね。

ーー加藤が美帆に思いを伝える展開は案としてあったのでしょうか？

玉田：絶対に自分から行動を起こさない主人公、というのが本作のテーマでした。確かに、最後の最後で加藤が自分の思いを伝えて、結果がどうあれそこに変化が起きて、加藤自身も変わる。それが定番の物語の形だと思います。でも、それをやってしまうと原作の持っていた要素からどんどん離れてしまう。脚本を書くときもどこまで原作を守るかというのは考えました。あくまでこの距離感を保ち続けることが作品の肝だなと。原作のオチは、「今まで読んできた文章は主人公が書いていたものだった」というメタ視点なものです。なので、映像化として置き換える場合は何ができるだろうと考え、加藤にも妻子ができているという形にしました。

ーー撮影時と現在では世の中の状況も大きく変化したと思います。改めて本作の魅力はどんな点にあるでしょうか。

玉田：90分という短めの作品ではありますが、観客の皆さんの身に覚えのある瞬間やセリフ、細かい表情が出てくるんじゃないかと。間口が広く、いろんな方に楽しんでいただける映画になったと思っています。

渡辺：自分が信じたい人、信じてほしい人とどういう距離感を作ることができるか。それを問いかける映画だと思います。実際の距離は近くてもすごく遠く感じたり、遠くにいても近くに感じられたりすることがあると思うんです。そういうときに言葉のキャッチボールが大事になるというか、どういう言葉だったら伝わるかというのが大事になると思います。本作はそれを考えさせてくれる映画になっているんじゃないかと。正解はないかもしれないですが、どういう言葉を伝えたい人に届けるか、自分にとって、相手にとって、どんな言葉が必要なのか。人とコミュニケーションを取ることが今までのようにできない今のご時世だからこそ、ぐっとくるものがあると思うので、今こそ観てほしいですね。

奈緒：第三者からしたら特別な時間ではないように見える加藤と美帆の時間も、加藤からしたらすごく特別な時間なんです。何を考えているかわからないところもありますけど、美帆から見ても、加藤はきっとかけがえのない存在なんです。きっと皆さんの中にもそういう人がいるんじゃないかと思いますし、これからそういう人と出会うかもしれない。この映画の中で出てくるような連絡の取り方、気軽な会い方というのができない現在ですが、「自分にとって当たり前に見えていたけど、この人との時間は特別な時間だったんだ」と、ふっと思い起こしてもらえるようなきっかけになってもらえたらうれしいです。

■公開情報
『僕の好きな女の子』
新宿シネマカリテほか公開中
出演：渡辺大知、奈緒、山科圭太、野田慈伸、前原瑞樹、萩原みのり、後藤淳平（ジャルジャル）、福徳秀介（ジャルジャル）、たくませいこ、児玉智洋（サルゴリラ）、秋乃ゆに、濱津隆之、東龍之介、柳英里紗、長井短、朝倉あき、徳永えり、山本浩司、仲野太賀
監督・脚本：玉田真也
原作：又吉直樹（別冊カドカワ総力特集『又吉直樹』内『僕の好きな女の子』）
主題歌：「友達じゃがまんできない」作詞・作曲前野健太
制作：吉本興業、TBSテレビ
制作プロダクション：MOTION GALLERY STUDIO、コギトワークス
製作・配給：吉本興業
(c)2019吉本興業
2019／カラー／アメリカンビスタ／DCP／90分
公式サイト：bokusuki.official-movie.com