スマホを持ったヒロインの恋愛はどう変わった? 『愛していると言ってくれ』の反響から紐解く

 1995年の大ヒットドラマ『愛していると言ってくれ』(TBS系)の「2020年特別版」への反響として、非常に多かったのが「ケータイ・スマホがない時代はよかった」という声である。「待ち合わせで待ちぼうけとか、今はない」「待ち伏せもなかなか面白かった」などの意見もあったが、確かに、恋愛ドラマにおいて「すれ違い」は重要な要素。

 恋愛ドラマが盛り上がった90年代などの作品に比べ、ケータイやスマホが登場したことで、すれ違いがなくなり、恋愛ドラマが衰退していったという指摘はしばしば囁かれる。

 はたして本当にそうなのか。

ケータイの有無が表れる「ライバルの関わり方」

『愛していると言ってくれ』(c)TBS

 『愛していると言ってくれ』の場合、豊川悦司の演じる榊晃次が後天性聴覚障害を持つこともあって、余計にすれ違いまくっていた。

 例えば、紘子(常盤貴子)の出演するお芝居を観に行くと約束した晃次だが、嫉妬した義妹(矢田亜希子)がタクシーの運転手に別の場所を告げたことで、会場になかなかたどり着けない。しかも、ようやく会場に到着した晃次が、入場を拒まれ、紘子への手紙を託すと、それも義妹が邪魔して奪ってしまう。

 ケータイ(携帯電話)があれば、遅れることも、さらに会場に来たが入れなかったことも、メールで本人に直接伝えられただろうに。

 また、ケータイがないから、直接家に会いに行き、よせばいいのに、ちょうど義妹が抱きついている場面を目撃してしまう。初めてFAXが来たときは、嬉しくてすぐ家まで会いに行った紘子と、紘子の家に向かった晃次がすれ違い、待ちぼうけとなるシーンもあった。これもケータイがあれば、相手が自宅にいるかどうか確かめた上で行くはずなので、今ではなかなか起こりえないすれ違いだろう。

 ところで、改めて振り返ってみてケータイの有無の違いを大きく感じたのは、「ライバルの関わり方」である。

 序盤~中盤まではことごとく二人の仲を邪魔するのが晃次に思いを寄せる義妹だが、そもそもケータイがあれば二人が直接やりとりできるので、誤解やすれ違いが成立しない。恋愛ドラマのすれ違いを大いに盛り上げてくれるのは、嫌がらせ、横恋慕するライバルの存在だが、そうしたライバルが秘密裏に暗躍しやすかったのが、ケータイのない時代だった。

 しかし、既にスマホを持ってしまった現在の人間から見ると、無い時代の人々の距離の近さや無防備さは恐ろしくも感じられる。

 例えば、劇場の入り口にいた人(しかも、紘子に思いを寄せる健一/岡田浩暉)に個人情報が書いてある手紙を渡したり、紘子の公演バイト仲間に手紙を託したりする晃次の無防備さには、「悪用されると考えないのだろうか」と心配になる。

 また、そこはキャラクター性による部分も大きいが、相手の都合もわからないのに、いきなり自宅に訪ねていったり、手紙を見つけると、卒業アルバムを勝手に引っ張り出して差出人の名前と顔をチェックする紘子のことを非常に厚かましく感じてしまう。

 素直で猪突猛進型のヒロインや、意地悪な横恋慕をするライバルが恋愛ドラマを盛り上げていた90年代。それはドラマチックで、刺激的で、大きな魅力を持つ一方で、スマホのある現在に生きる自分たちの感覚からすると、恐ろしく感じられる部分はある。

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