『国盗り物語』は『麒麟がくる』と比較すればするほど面白い 戦国物語の基本的な型に

 俳優陣もギラギラとした『国盗り物語』と比べると、斎藤道三は本木雅弘、織田信長は染谷将太と落ち着いた役者が多く、得体の知れない不気味さと格調高さを漂わせている。

 逆に光秀を演じる長谷川博己は『国盗り物語』で光秀を演じた近藤正臣と比べると、非正規雇用の派遣労働者といった佇まいで、日々の暮らしで精一杯である。

 だが、そんな野心家からは程遠い光秀の弱さにこそ、現代を生きる我々は自分の姿を重ねてしまう。

 『国盗り物語』の様式は80年代以降も温存されており、多くの日本人が考える戦国物語の基本的な型となっている。これは未だ日本人が高度経済成長という昭和の物語に呪縛されていることの現れとも言える。

 だからこそ『麒麟がくる』は、その同じ枠組を使って、新しい物語を見せようとしているのだろう。その意味でもこの二作は、比較すればするほど面白い。

 また、『国盗り物語』の合戦シーンは、カラーのハンディカメラ(当時は日本に一台しかなかった)を用いたフィルム撮影となっているのだが、このシーンがとても臨場感があり見応えのある仕上がりとなっている。

 『麒麟がくる』では全編4K撮影となっているが、2010年の『龍馬伝』におけるプログレッシブカメラの使用など、大河ドラマはテレビドラマにおける技術面での実験場だったことを、本作を観ることで再確認することができた。

 物語や俳優の演技の違いもそうだが、撮影における技術面の違いを比較するのも面白いだろう。詳細で色鮮やかな4K映像も悪くないが、荒々しいフィルム映像で撮られた合戦シーンを観ていると「正解は一つではないのだ」と気付かされる。

 前回の『独眼竜政宗』もそうだが、新旧作品の比較によってわかることは実に多い。撮影中断にともなう苦肉の作に当初は思えた大河ドラマの傑作選だが、同じ戦国時代の登場人物や出来事をどのように描いているかを比較しながら観ることで、旧作の再評価と、最新作である『麒麟がくる』の挑戦していることがよくわかる。実に素晴らしい試みである。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
特集番組『「麒麟がくる」までお待ちください 戦国大河ドラマ名場面スペシャル』
6月21日(日)『国盗り物語』
6月28日(日)『利家とまつ』
7月12日(日)『秀吉』
NHK総合にて、20:00〜20:45放送 ※土曜の再放送あり
NHK BSプレミアムにて、18:00〜18:45放送

7月26日(日)
「キャスト・スタッフが明かす大河ドラマの舞台裏」
NHK総合にて、19:30〜20:43放送

『東京都知事選開票速報』
NHK総合にて、7月5日(日)19:59~20:50放送

『ダーウィンが来た!「今こそ見たい!日本の大自然スペシャル」』
NHK総合にて、7月19日(日)19:30~20:43放送

『エール』第1回より再放送
NHK総合にて、6月29日〜(月〜土)8:00〜8:15放送
NHK BSプレミアム、BS 4Kにて、6月29日〜(月〜土)7:30〜7:45放送

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