伊藤沙莉の演技はなぜ心に刺さるのか 荒唐無稽な『いいね!光源氏くん』を成立させる“普通力”
『いいね!光源氏くん』第四絵巻「らいばるにご用心?」では、光に加えて頭中将まで登場。平安貴族のイケメンふたりが口元を隠しながら「うふふうふふ」とたおやかに語るシーンは美しくもおもしろいのだが(上半身裸のふたりが薔薇の花びらに囲まれ一緒に眠るシーンは衝撃的だった……攻めてるぞNHK)、それが活きるのも光と頭中将を見つめる沙織の絶妙な表情があってこそ。もし沙織を演じるのが伊藤ではなかったら、わたしたちはここまで楽しくこのドラマを観ることができただろうか。
視聴者は伊藤沙莉の「普通力」あふれる佇まいに自分を重ね、安心して“ありえない”物語の世界に身を浸すことができるのだ。いつもサラダやパンケーキを食し、給料に見合わないバッグや流行の洋服に身を包むモデル的女優ではなく、コートを着回し、自宅ではおしゃれと言えないスウェットに着替えてテイクアウトの牛丼を頬張る。伊藤が醸すこの現実味が光源氏や頭中将の非現実感とマッチし、ドラマ全体をくすっと笑えるテイストに仕上げているのである。
千葉雄大のまったりとした高貴さを宿す光源氏、どこか天然モードの桐山漣演じる頭中将、そして普通力を駆使してどこにでもいそうなOL・沙織を等身大で魅せる伊藤沙莉。この3人の絶妙なバランスとそこはかとない可笑しさは気持ちがささくれがちな今、視聴者に優しさと笑顔とをもたらしてくれる。
最後は和歌で……とも思ったのだが、教養のなさがバレるので、このへんで。本放送に間に合わなかった人はぜひ1話から4話までの一挙放送でこの明るく楽しい、そしてほんの少し切ない世界観に身を委ねて欲しい。
■上村由紀子
ドラマコラムニスト×演劇ライター。芸術系の大学を卒業後、FMラジオDJ、リポーター、TVナレーター等を経てライターに。TBS『マツコの知らない世界』(劇場の世界案内人)、『アカデミーナイトG』、テレビ東京『よじごじDays』、TBSラジオ『サキドリ!感激シアター』(舞台コメンテーター)等、メディア出演も多数。雑誌、Web媒体で俳優、クリエイターへのインタビュー取材を担当しながら、文春オンライン、産経デジタル等でエンタメ考察のコラムを連載中。ハワイ、沖縄、博多大吉が好き。Twitter:@makigami_p
■放送情報
よるドラ『いいね!光源氏くん』
NHK総合にて、5月2日(土)一挙再放送
第一絵巻:15:25〜15:54
第二絵巻:15:54〜16:23
第三絵巻:16:23〜16:52
第四絵巻:16:52〜17:21
NHK総合にて、毎週土曜23:30〜(29分・全8回)
出演:千葉雄大、伊藤沙莉、桐山漣、入山杏奈、神尾楓珠、小手伸也ほか
原作:えすとえむ
脚本:あべ美佳
音楽:小畑貴裕
演出:小中和哉 田中諭
制作統括:管原浩(NHK)、竹内敬明(テイク・ファイブ)
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/drama/yoru/hikarugenji/
公式Twitter:https://twitter.com/nhk_purpleamore