本木雅弘、“愛嬌を持った悪役”として放つ新たな輝き 『麒麟がくる』道三として物語を動かす役割に
そもそも、本木演じる道三は、配下の者たちから、まったく慕われていない。先日の放送でも、光秀に「わしが嫌いか?」と問い掛けて、「どちらかと申せば嫌いでございます!」と面と向かって言わせてしまうほど、実に人望の無い人物なのだ。しかも、ことあるごとに吝嗇家……平たく言えば“ケチ”であることも強調されている。そう、“福原”が典型的な“静”のキャラクターだったとするならば、“道三”はその“静”の中にどこか捉えどころの無さがあるような……しかも、それが周囲の人間にとっては、時折滑稽に見えるような、そんな奇妙な人物として描き出されているのだ。
そこで思い起こされるのは、先述の『プロフェッショナル 仕事の流儀』を撮り終えた番組ディレクターの言葉だった(引用:描きたいのは「光と影」ディレクターが感じた “本木雅弘” とは──?|NHK)。約半年にわたる密着取材を終えた今も、「結局、まだ本木さんがどんな方なのか、わからない」と語るディレクターは、その思いを次のように述べている。
「本木さんの言葉を借りると『自分は何者なのか自分で決めてしまったら限界値を定められた気分になる』と。だからできるだけ規定されたくない。そういう彼の矛盾する中で揺れていることが、結果的にミステリアスな人を作っているのかもしれません」
この「規定されたくない」という思いは、奇しくも彼が今回演じてる道三のキャラクターにも大いに反映されているのではないだろうか。「油売りから身を起こした成り上がりものの子でマムシと陰口を叩かれる下賤な男」と自ら称しながら、心のうちではそれを必ずしも認めていないような、どこか矛盾した雰囲気を持った道三というキャラクター。そう、「矛盾する中で揺れていること」。それが、今回本木が演じる道三という人物の醍醐味であり、自身はもちろん、その周囲の人々を思いがけない行動に駆り立てる物語的なひとつの“装置”として、大いに機能しているのではないだろうか。
さらにもう一点、今回本木が演じる道三の見どころを挙げるならば、それはことあるごとに彼が対峙する人物の多くが、本木よりも年下であるところだ。その代表作でありアカデミー賞外国語映画賞(当時)を受賞した映画『おくりびと』をはじめ、いわゆる“青年役”として年上のベテラン俳優と絡むことが多かった印象のある本木。けれども、今回のドラマでは、主人公・明智光秀を演じる長谷川博己、ひとり娘である帰蝶(濃姫)を演じる川口春奈、嫡男・高政(義龍)を演じる伊藤英明など、年下の役者と対峙するシーンが実に多いのだ。
先述の番組で「気持ちより、見た目」と公言していた本木だが、やはり一対一のシーンでは、相手の役者とその感情を取り交わすものである。彼の芝居が相手から引き出し、相手の芝居が彼から引き出すものも大いにあるだろう。実際これまでも、道三が光秀や高政と対峙するシーンは、このドラマのひとつの見せ場となっていた。
そして、いよいよ第14回「聖徳寺の会見」で、道三はこの物語のもうひとりの重要な人物である“彼”と対峙することになる。本木と同じくその意外性に富んだキャスティングが話題となり、現在のところ期待に違わぬ好演でこれまでにない人物像を描き出している、染谷将太演じる織田信長だ。
果たしてそこで、彼ら2人は、どのような空気を醸し出しながら、どんな言葉を交わし合うのだろうか。結果的に、主人公・光秀はもちろん、帰蝶や高政、そして道三と信長自身の運命をも、大きく動かしていくことになるこの会見。物語的な意味でも、本作の序盤におけるひとつの大きな見せ場となるに違いない、その手に汗握る“会見”に期待したい。
■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「リアルサウンド」「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twitter
■放送情報
大河ドラマ『麒麟がくる』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送
BSプレミアムにて、毎週日曜18:00〜放送
BS4Kにて、毎週日曜9:00〜放送
主演:長谷川博己
作:池端俊策
語り:市川海老蔵
音楽:ジョン・グラム
制作統括:落合将、藤並英樹
プロデューサー:中野亮平
演出:大原拓、一色隆司、佐々木善春、深川貴志
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/kirin/
公式Twitter:@nhk_kirin