『テセウスの船』が回を追うごとに支持された理由 他人事に思えない竹内涼真の奮闘

 医療ドラマだらけだった今期ドラマの中で、マイペースにヒューマンミステリーで勝負した日曜劇場『テセウスの船』(TBS系)は回を追うごとに熱を帯びていった。

 1989年(平成元年)に起きた「音臼小無差別大量殺人事件」の犯人の息子として主人公・田村心(竹内涼真)は、31年間、世間から背を向けるように生きてきた。あるとき、過去にタイムスリップ、事件当時の父・佐野文吾(鈴木亮平)と出会い、その無実を確信、事件の真相を探り、過去を変え、未来を変えようと奮闘する。

 最初は殺人犯らしく怪しく見えた文吾が、じつは正義感にあふれた誠実な人物であることがわかり、心とバディのように助け合いながら事件を追うようになる。心は途中、2020年の現代に戻ると、妻・由紀(上野樹里)が事件を追う記者になっていたり、姉・藍(貫地谷しほり)は顔も名前も変えて、新たな人生を生きようとしていたりする。藍の内縁の夫となっていた相手が木村みきお(安藤政信)。89年の音臼小に通っていた少年である。そして、このみきおこそ、事件の鍵を握っていた。

 みきおが犯人であるとふみ、事件を防ごうとする心と文吾だったが、文吾がみきおともうひとりの共犯者に捕まってしまう。そして、みきおの策略によって文吾がすべての事件の犯人に仕立てあげられて……。みきおの共犯者とは誰なのか……。3月22日の最終回はいよいよすべての謎が解き明かされる。

 1話完結もののドラマが見やすいと好まれる傾向のある昨今だが、『テセウスの船』は1話完結ではなく、ひとつの事件を追っていくのでストーリーに途切れがなく、1話見過ごすとわからなくなるというハンデがある。それを乗り越えて支持された理由は何だったのか。

 前半は、果たして文吾が犯人なのか?という心理戦、そこから文吾と心のバディもののようになり、中盤、心が再会した由紀とのラブストーリーと、事件の真相を懸命に追い続ける由紀のヒューマンドラマ的になり、後半、意外な顔を見せたみきおによる少年犯罪を描くサスペンス調と、各話にメリハリをつけていることが観やすさに繋がった。それぞれのエピソードだけ観ても、なんとなく満足できるし、面白いから続けて観ようという気になる。なんとなく離れがたい磁場が作れていたと思う。

 鈴木亮平を筆頭に、上野樹里、貫地谷しほり、安藤政信、みきおを引き取った音臼小の教師・木村さつき役の麻生祐未、心を追う刑事・金丸役のユースケサンタマリアなど、名優が集まり、伝えたいことが明瞭に伝わってくる。鈴木亮平や麻生祐未の特殊老けメイクがやや不自然な気もしないでないが、演技が迫真なので気にならなくなってしまうのである。それから、みきお役の柴崎楓雅の魔少年ぶりに目が離せなかった。

 濃いめの出演者に囲まれて、主人公の竹内涼真はあっさりおとなしめであるが、現代と過去を行き来し、事件の真相を追う役なので、そんなに濃くなくていい。でも、第9話でなんだか鈴木亮平に表情が似てきたなあと思って観ていたら、文吾に似ていると言われる場面があった。意識して似せているのかもしれない。そして先輩・鈴木亮平の情熱的な力強い演技を間近で見ることによって竹内にも変化が起こっているのかもしれない。それは2018年のNHK大河ドラマ『西郷どん』で、鈴木亮平が渡辺謙とに共演することで学びを得ているようだったことと重なって見える。

 竹内演じる心と鈴木演じる文吾が『テセウスの船』の芯。視聴者を飽きさせない構成のなかで一貫していたのは、文吾の無実をはらしたいという心の想いである。事件の裏側を知らないときは、自分や残された家族の人生をめちゃめちゃにしたと憎悪していたが、真相を知ってからはすっかり文吾への信頼が厚くなっている心。文吾はほんとうに魅力的な好人物なのだが、どんなに心ががんばって過去を変えようとしても、そのたび、世界線は文吾が犯人になる線に戻ってしまう。もちろん、すぐに解決してしまったらドラマが終了してしまうからしょうがないのだけれど。そのじりじり感もドラマの魅力のひとつである。

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