サム・メンデスの新境地! 『1917 命をかけた伝令』の“シンプルな物語”と“実験的な手法”

 1917年。第一次世界大戦の戦場で過ごす2人の若者ブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)とスコフィールド(ジョージ・マッケイ)は、唐突に上官から呼び出しを受ける。彼らを待っていたのはエリンモア将軍(コリン・ファース)だった。将軍は先行している部隊が敵の罠に落ちつつあり、このままでは壊滅的な打撃を受けることを告げる。しかし、通信は敵の手によって絶たれており、部隊を救うには現地に行って口で情報を伝えるしかない。もしも2人の情報伝達が間に合わなかったら、1600人の味方が敵の攻撃で死ぬ。将軍の話を聞くやいなや、ブレイクはすぐさま戦場へ駆け出してゆく。その1600人の中には、彼の兄がいたからだ。はたして2人は過酷な戦場を突破し、伝令を渡すことができるのか?

 本作『1917 命をかけた伝令』(2019年)の監督を務めたサム・メンデスは、なかなか変わったキャリアを築いている人物だ。一つの家族がブッ壊れていくさまを描いた『アメリカン・ビューティー』(1999年)、レオナルド・ディカプリオ×ケイト・ウィンスレットという『タイタニック』(1997年)のコンビを起用しながら、またしても家族がブッ壊れる話『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』(2008年)のような、いい意味でささやかなスケール感の、しかし丁寧で意地の悪い傑作を手がけている。その一方で、『子連れ狼』に影響を受けた渋いノワール・アクション『ロード・トゥ・パーディション』(2002年)や、言わずと知れた人気シリーズ『007 スカイフォール』(2012年)、『007 スペクター』(2015年)も監督しており、意外なほど幅は広い。

 『1917』は、そんなメンデス監督の新境地だ。彼はこれまで入り組んだ人間模様を描くストーリーテラー的な側面が強かった。しかし、本作はビックリするほどシンプルな物語だ。さらに「全編ワンカットに見せる」という極めて実験的なアプローチもなされている(もちろん実際の撮影は全編ワンカットではないし、途中でハッキリと暗転も挟むが)。シンプルな物語と、実験的な手法。この2つの要素のせいか、彼のこれまでの作品とは毛色が大きく違う。これまで変化球を投げていた選手が、いきなりド真ん中ストレートの球を投げて来たような感じだが、彼の挑戦は成功している。

 やや話は逸れるが、この世の地獄のような戦争映画『オペレーション:レッド・シー』(2018年)を撮ったダンテ・ラム監督は「観客に『映画とはいえ、スゲェことしてるな』と思ってほしい」と言った(引用:『映画秘宝EX激闘!アジアン・アクション映画大進撃』(洋泉社))。この『映画とはいえ、スゲェことしてるな』という感覚は大事だ。『1917』にも同種の驚きがある。泥まみれになりながら戦場を駆けずり回り、爆破に巻き込まれて死にかけて、川に落ちて激流に流されるなど、主人公たちは次々と悲惨な目に遭う。もちろん映画なのだから、安全対策はきちんとしているだろう。しかし、執拗な長回しと、俳優たちが実際に体を張っているという事実が、これが“お芝居”であることを忘れさせてくれる。「物語」以上に、役者たちの「肉体」が魅力となっているのだ。少し前に『キャッツ』(2019年)のレビューで「フルCGのSASUKEに感動できるか?」という意見を書かせていただいたが、この映画はその逆だろう。半壊した橋をおっかなびっくり進んでいると、銃弾が飛んでくる。周りがバンバン爆破する中で必死に全力疾走する。こうしたシーンには『映画とはいえ、スゲェことしてるな』という感覚、一種のSASUKE的な感動があった。

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