【ネタバレあり】『パラサイト 半地下の家族』が描く韓国社会の構図 “善悪”で動かない物語の特殊性

 ポン・ジュノ監督の映画『パラサイト 半地下の家族』の興行収入が10億円を超えたという。筆者も二度鑑賞したが、最初に観たときは、その見事なストーリー展開を追うだけで2時間があっという間で、その表面上の面白さに気を取られていた。しかし、二度目を観て、やっと物語の表の部分以外も見えるようになってきた。今回は、映画のネタバレ部分も含めて考察してみたい。

韓国社会を反映した登場人物たち

 本作は、ソン・ガンホ演じるキム・ギテクとその一家が暮らす半地下のアパートや、その近所の路上など、ほかの場所で進むシーンはあるにはあるものの、物語の大半は、IT社長であるパク・ドンイク(イ・ソンギュン)の一家の住む豪邸で展開されていて、その部分は、ワン・シチュエーションの舞台を観ているような感覚を受ける。

 ワンシチュエーション(に近い)映画といえば、クエンティン・タランティーノの2015年の作品『ヘイトフル・エイト』が思い浮かぶ。この映画を観たとき、密室の中の人間関係が、ただその人たちの関係性を描いているだけではなく、その人の背景、例えば南北戦争の元北軍の黒人、元南軍の兵士、イギリス人、メキシコ人、いつも殴られている女性の盗賊など、それぞれがその出自を背負ったキャラクターを演じているのであり、それが実際の社会での在り方と重なっているのだと解釈できた。

 『パラサイト』もまた、大部分が密室劇であるという意味では、登場人物は、その人個人のキャラクターだけでなく、韓国社会における社会的な役割や背景を背負っているのではないだろうか。

 例えば、キム一家の父親のギテクは、劇中にも描かれるように、1997年のIMF危機で職を失い、駐車場で働いたり、台湾カステラ店、フライドチキン店を経営したりと職を転々とした人である。これは、多くの父親たちがIMF危機後にこうしたフランチャイズの仕事に手を出した事実と重なる。また母親のチュンスク(チャン・ヘジン)はかつてはメダリストであったが、そんな経歴は今や何の役にも立たない。これも、何かの能力があっても、それが仕事を得るのに役に立っていない多くの母親世代を象徴しているのかもしれない。

 また息子のギウ(チェ・ウシク)は、家にお金がないために浪人しても十分な受験テクニックが得られず、大学にまだ受かっていない。妹のギジョン(パク・ソダム)も、美術の素養はあるのに美大には受かっていない。こうした若者は韓国にたくさん存在しているだろう。

 一方、パク一家の夫・ドンイクはIT企業の社長で、彼はお金持ちの象徴であり、その妻のヨンギョ(チョ・ヨジョン)は、若く美しく、そしておひとよしでちょっと騙されやすい。ヨンギョの生い立ちには、少し謎が多く、日本の感覚でいうと、もしかしたら、彼女は裕福な家庭で育ったわけではなく、その美貌で夫に選ばれたのかとも考えてしまうが、家事能力が皆無なところを見ると、家庭の中で家事労力を家族が担う必要のない階層で育ったことがわかる。

 彼女の娘のダヘ(チョン・ジソ)も、家庭教師をつけていても、あまり成績が良さそうに見えないのは、必死で勉強しなくてもよい環境であることの表れかもしれない(これは予想だが、彼女はいずれ「いい」海外の留学先に行くだろう。韓国ではどこに留学するのかにも格差があるという)。そして息子のダソン(チョン・ヒョンジュン)は、美術の素養があるように見えるが、落ち着きがなく、いつも何かにおびえている(ということにはいろいろ理由があったが)。

※以下、結末に触れます。

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