世界を知る“ニュース”としての価値が向上 2019年必見のドキュメンタリー&リアリティー番組

 数年前まではドラマや映画の配信が中心だった動画配信サービス。Netflixを中心に、今ではドキュメンタリーやリアリティー番組も数多く配信され、配信作品のバリエーションも大幅に広がっている。今回は今年配信された新作海外のドキュメンタリーおよびリアリティー番組の中でも、新たな流れを感じされる作品をピックアップしながら、2019年を振り返りたい。(メイン写真=Netflixオリジナルドキュメンタリー映画『アメリカン・ファクトリー』独身配信中)

オバマ前大統領夫妻も参入 ニュースのアーカイブとしての社会派ドキュメンタリー

 各動画配信サービスが数年前から力を入れているドキュメンタリー部門。中でも、責任者リサ・ニシムラ氏を筆頭に視聴データをもとに戦略的にドキュメンタリー作品の配信を行ってきたNetflixはやはり今年も強い印象。その中でもビッグニュースと言えば、オバマ前大統領夫妻がNetflixと契約を結び、その第一弾として配信された『アメリカン・ファクトリー』だ。オハイオ州のゼネラル・モーターズの工場が閉鎖。新たに中国企業・福燿が進出し、経営者が変わる中、人々は再び工場で勤務を始めるものの、企業文化の違いや言葉の壁にぶち当たる切実な今のアメリカを姿を映し出している。ニュースで報道された中国資本の進出を、アメリカ側、中国側の両方から映し出すドキュメンタリーは、アーカイブ化されたニュースの記録として動画配信サービスの可能性を改めて示しているとも言える。Netflixだけでなく、Amazon Primeビデオでは『一人っ子の国』『同じ遺伝子の3人の他人』、Huluでは『フリーソロ』(今年のエミー賞受賞作)など良質な社会派ドキュメンタリーが配信されている。劇場公開もDVD化もされないことが多いドキュメンタリー作品だが、配信サービスでは観ることができるニュースのアーカイブとしての価値は今後も高まっていくだろう。

犯罪ドキュメンタリーで描かれる内容の真偽とは

 特筆すべきは『FYRE:夢に終わった史上最高のパーティ』と『グレートハック:SNS史上最悪のスキャンダル』だ。どちらも邦題で「史上~の」などとついてしまっているので、逆に内容が軽いように思えてくるがそんなことは全くなく、胃がキリキリと痛くなる内容だった。両方ともSNSが発端となって社会を悪い方向へ動かしてしまった事例だが、『グレートハック』については政治の結果さえ動かしてしまっている。その事実には背筋が凍る。犯罪ドキュメンタリーは今や動画配信サービスだけでなく、英語圏ではポッドキャストでも人気コンテンツである。依然として人々を魅了するコンテンツである一方、課題もある。子ども時代にマイケル・ジャクソンに性的虐待を受けたと主張する人物とその家族にフォーカスしたドキュメンタリー『ネバーランドにさよならを』はエミー賞を受賞した一方で内容の真偽について指摘されている状況だ。この状況では、製作側の真偽を突き止めるためのドキュメンタリーがさらに製作されそうな気さえする。ドキュメンタリーを観る側の心得としても、製作者側の視点が強く反映されている点は必ず考慮し、一歩外から観るよう心がけるべきではと感じる事例でもある。

Netflixが巨額の資金を投じたビヨンセの『HOMECOMING』

Netflixオリジナルドキュメンタリー映画『HOMECOMING』独占配信中

 日本でも今年の年末に嵐のドキュメンタリーシリーズが配信決定となり、大きな話題となっている音楽ドキュメンタリー。英語圏で言えばやはり今年は何といってもNetflixが6000万ドルもの資金を投じて獲得したビヨンセの『HOMECOMING』だ。2018年のコーチェラ・フェスティバルでヘッドライナーを務めたビヨンセの伝説のパフォーマンスとその舞台裏をビヨンセ自ら監督した本作。このパフォーマンスはYouTubeを通じて全世界へライブ配信されたが、一度しか見ることができないと思っていたライブ映像をNetflixでいつでも何度でも観れることへの感動はファンにとってはたまらない。トップアーティストのNetflixオリジナル音楽ドキュメンタリーと言えば、ジャスティン・ティンバーレイク、スティーブ・アオキ、キース・リチャーズ、レディー・ガガ、テイラー・スウィフト等、毎年豪華なラインナップが続いていたが、ついにビヨンセ様が登場といった状況だ。普段ドラマや映画を観ない人でも、ビヨンセのファンであればNetflixに加入することは必至。新たな顧客獲得施策としても、Netflixの気合を感じる投資ともいえる。

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