『エンドゲーム』『IT/イット THE END』『フォードvsフェラーリ』など、映画長尺化の背景を探る

 映画の長尺化を後押しした理由として、この配信vs映画という構図だけではなく、テレビvs映画の熾烈な競争についても書かないわけにはいかない。HBOをはじめとしたケーブル局が質の高いオリジナルシリーズを次々と打ち出したのに続く形で、NetflixやAmazon、Huluといった配信サイトもオリジナルのシリーズを立て続けにリリースした。複数のシーズンにわたって続くことが当たり前のドラマシリーズは、長いスパンの中でより深みのあるストーリーを見せるには最適であり、同時に配信やケーブルはレーティングなどの放送上の制約が少ない。こうして、大胆かつ深みのある映像表現をもってテレビドラマは黄金時代を迎え、今では年間に500本を超える作品がリリースされるようになっている。これまで映画で活躍してきた大物監督や俳優がテレビに活動の場を移すケースが出てきたことで危機感を抱いた映画業界は、そんな現状に対処すべく、1本で完結する単発のストーリーではなく、例えば3部作としての尺の長いストーリーを描くことも頻繁に行われるようになった。

『アベンジャーズ/エンドゲーム』(c)2019 MARVEL

 この傾向は、特にマーベルやDCなどのスーパーヒーロー映画やファンタジーの作品を中心に見られる「シネマティック・ユニバース」系の映画で特に顕著である。これらのジャンルでは、例えば同じユニバース内に存在する主役級のトップ俳優が何人も登場する映画が増えることになった。これによって、映画のメインプロットに加え、それぞれのキャラクターの苦悩や恋愛など、何本ものサブプロットが詰め込まれ、それを演じる各俳優たちがスクリーン上に登場する時間を確保するため、映画の尺は大きく伸びた。どのストーリーラインを含むかというのは、監督や脚本家からのクリエイティブ上の要求であることもあれば、契約やマーケティングなどのビジネス的な理由からという場合もあるだろう。

 さらに、オーディエンスはこれまで映画スタジオによって作られたものをただ一方的に消費するだけであったが、ここ数年は、映画の内容に対するオーディエンスの声が一気に強くなったという背景もある。SNS上での声をきっかけに、スタジオが撮り直しや再キャスティングを行うなど、一人のオーディエンスの力が大きくなった結果、映画が炎上するというリスクを常に気にする必要が出てきた。特に原作に基づいた作品に対して、その世界観を大きく逸脱するアレンジが普通に行われていた一昔に比べ、映画製作者側は、原作により忠実な映像化を期待するオーディエンスを裏切ってしまうというリスクを避けるため、どのシーンを生かすか、削るかについてより慎重になっている。

Netflixオリジナル映画『アイリッシュマン』

 このコラムでは、いわゆるブロックバスター作品の尺が伸びていることの背景について考えてきたが、実は、インディペンデント系アート映画も2時間越えの作品は珍しくなくなっている。インディ系の作品は特に生き残りが厳しい中、尺を伸ばすことで生じるリスクは予算の増加だけにとどまらない。一方で、ハリウッドでアート系インディ映画の新たなホームと言われてきたAmazon、この11月に3時間29分という長大な映画『アイリッシュマン』をリリースしたNetflixと、それぞれポジションは異なるが、配信プラットフォームの強みの一つは、コンテンツの時間的なしばりがないことであるから、今後もこれらのプラットフォームでの配信を前提に作られた作品の尺が伸びる可能性は大いにあるだろう。大規模化の道をたどるブロックバスターと、最適な「ホーム」を探すアートハウス独立系映画、この尺の変化は、今後は映画館で観る「映画」というくくりだけでなく、もっと広い意味での「映像作品」としての今後の方向を示唆しているように見えて興味深い。

※参照:Box Office Mojo

■神野徹
北海道出身。カリフォルニア大学ロサンゼルス校で映画プロデュースを学び、その後メジャースタジオの長編映画企画開発部門などで経験を積む。

■公開情報
『フォードvsフェラーリ』
2020年1月10日(金)全国ロードショー
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:マット・デイモン、クリスチャン・ベール、トレイシー・レッツ、カトリーナ・バルフ、ノア・ジュプ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/fordvsferrari/

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