『俺の話は長い』生田斗真が流した涙の価値 無駄ではなかった“ニートとしての6年間”

 綾子(小池栄子)と光司(安田顕)、そして春海(清原果耶)の3人が岸辺家を引っ越す日が迫る中、コタツでミカンを頬張りながら“意識してなかった間に人生で最後だった食べ物”について語り合う満(生田斗真)と光司。14日に最終回を迎えた日本テレビ系列日曜ドラマ『俺の話は長い』。綾子たち家族の同居に始まり、春海の恋や進路の悩み、光司の突然のニート化、そして満が就職するのか否か。登場人物それぞれに何らかの変化の機会が設けられながらも、劇的な大事件が起こることなく日常的な様子を描きつづけた本作において、やはり“食事”という日常に最も不可欠な要素が最重要な存在であったことを改めて感じさせられる。

 とりわけ今回のエピソードの冒頭で満と光司が食べる焼きそばに、家族で食べる刺身、綾子たちの引越しの前日に家族全員で囲うすき焼きに、ふたたび満と房枝(原田美枝子)だけの生活が始まった朝に満が淹れるコーヒー。このドラマの第1話と第2話で登場した食べ物(第1話の「其の二」では刺身ではなく寿司ではあったが)が再び登場するあたり、彼らの日常は終わりも始まりもなく、何度もループしていくことを示しているかのようだ。しかも2度にわたってエピソードタイトルに選ばれたコーヒーとすき焼きは、どこの家庭にも必ずひとつはあるであろう、特別なものだというわけだろう。

 もっとも、この最終回では食べ物に限らず、これまでのエピソードで登場した様々なファクターがすべて最終回へ向けた伏線だったかの様に再登場を果たしたのが印象的だ。春海が第1話ですき焼きに釣られて岸辺家にやってきた際に乗っていた自転車が、引越しのトラックに積まれ損なったことで満と綾子の姉弟の物語と、春海と光司が2人だけで新居に向かうことになった車の中で、初めて春海が光司に対して「お父さん」と呼ぶきっかけを生む。また“ガンプのスマッシュ”やルンバ、満の新たな一歩にエールを送る『ロッキー』のテーマもしかりだ。

 この3ヶ月の物語の中で起きた最大の変化は何だろうか。それは6年間のニート生活に甘えていた満が、姪である春海の進路の悩みに向き合ったり、夢と現実の間で揺れ動く光司と同じ時間を共有し、そして明日香(倉科カナ)や渡利(間宮祥太朗)らとの出会いによって、新たな一歩へと進む“きっかけ”を得た、ということに他ならない。だからこそ、議員秘書の面接に見栄を張って新調した7万円のスーツで向かい、相変わらずの“トークフェンシング”の達人ぶりを発揮した満が、その後どうなるのかと明示されないというエンディングは実に綺麗に収まったものに見える。

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