『まだ結婚できない男』三角関係に終止符が 阿部寛が示した人生100年時代の多様な生き方

 また桑野とまどかの衝突を目の当たりにして心を動かされたのは有希江だけではなかった。木村とその妻も裁判をやめ、離婚も考え直すことにしたと言う。二人の喧嘩を見て、自分たちは互いに言いたいことをぶつけ合っていなかったと気づいたようだ。

 さらにこの夫婦の離婚を考え直させた要因として、桑野が書き換えた設計図の効力によるところも大きい。元々シングルライフを思いっきり満喫できるようにというコンセプトで作っていた家だったが、二人で語り合えるようなリビングルームを設け、「それぞれが一人の世界を確保しつつ、お互いの存在をいつも忘れず感じられるような設計」、「二人がやり直す気になっても良いような家に変えてみた」と言う。

 そもそも桑野が図面を書き換えようと思ったきっかけはまどかの法廷での発言にあり、そんな動機をくれたまどかから木村夫婦に新たな図面案を見せて欲しいと想いを託す。新しい設計図を見た木村夫婦は「互いにやり直したい気持ちがあるものの言い出せなかった。そんな二人でも図面を見た瞬間、この家に住めば向き合い直せるとはっきりと思った」そうだ。

 終盤、長野で暮らす母親の体調が芳しくなく、地元に帰って弁護士事務所を継ごうかと迷うまどかが「こんな時誰かが“帰るな”って言ってくれたら良いのに、そんな感じです」と言う、あの表情はリアリティが満載でお見事だった。東京で一人奮闘する女性が、ほんの一瞬だけ見せた弱さ、誰かに甘えたり丸投げにしたり出来ない、受けて不在の手放し切れないやるせなさがそこにはあった。それに呼応する桑野の絶妙な間合い。「大人同士」ゆえの距離の縮まらなさや、物分かりの良さや慎重さゆえの遅々として状況が進展せぬ様子、空気感がそのまま画面越しに伝わってきた。

 最後の見せ場、桑野がまどかに長野に帰らないで欲しいと伝えるシーンはあの桑野としては上出来だったのではないだろうか。彼らしく時事問題を絡めたり、苦労対効果や効率性を重視した賢明な判断として「東京在留」を勧めるというスタンスに終始し論破するのかと思いきや、最終的には「そういう訳で長野に帰るのはやめた方がいいってことです。あなたがいなくなるとつまんないし、寂しくなります」ときちんと自身の感情を素直に伝えられていた。

 人生100年時代、結婚や夫婦の在り方などの固定概念に縛られるのは真っ平御免だとしながら、その結婚や夫婦関係を敬遠することもまたある面ステレオタイプに捕らわれてしまっていると言える。これからの時代、今回の桑野の設計図のようにそれぞれの夫婦、ケースごとにいくらでもその在り方を再設計しデザインしていけば良いのだと大切なことを不器用な大人たちが身を以て教えてくれた気がする。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで2018年の劇場鑑賞映画本数は96本。Twitter

■放送情報
『まだ結婚できない男』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00~21:54
出演:阿部寛、吉田羊、深川麻衣、塚本高史、咲妃みゆ、平祐奈、阿南敦子、奈緒、荒井敦史、小野寺ずる、美音、RED RICE、デビット伊東、不破万作、三浦理恵子、尾美としのり、稲森いずみ、草笛光子
脚本:尾崎将也
演出:三宅喜重(カンテレ)、小松隆志(MMJ)、植田尚(MMJ)
チーフプロデューサー:安藤和久(カンテレ)、東城祐司(MMJ)
プロデューサー:米田孝(カンテレ)、伊藤達哉(MMJ)、木曽貴美子(MMJ)
制作著作:カンテレ、MMJ(メディアミックス・ジャパン)
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/kekkondekinaiotoko/

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