佐々木蔵之介、ミステリーに明るさを添える 『シャーロック』で見せるコミカルさと温かさ

 難解な事件が起こると、犯罪捜査専門コンサルタントの誉獅子雄(ディーン・フジオカ)を無理やり巻き込んで「気になるよな?」「盛り上がって来ただろう?」と捜査するよう焚きつけたり、「鍵開いてたよ」と言いながら若宮潤一(岩田剛典)の住む部屋へ何食わぬ顔で勝手に上がり込んだり、事件の捜査では部下の小暮(山田真歩)を走り回らせて、自分はほとんど動かずに楽をする。現在フジテレビ系で放送中の『シャーロック』に登場する、佐々木蔵之介が演じる江藤礼二は、ミステリードラマの刑事とは思えない軽いノリで、このドラマにユーモラスな空気をもたらしている。

 そもそも、江藤は第1話の初登場シーンから意表をついてきた。被害者の死亡現場に残された血痕を見て「まるで東京の地図みたいだな」と呟いたのだ。刑事はそういう現場を見慣れていて感覚がマヒしている、という見方もできるだろうが、のっけからの不謹慎な発言に驚かされた。その後の江藤はまさにこの第一声に象徴されるように、お調子者で飄々とした振る舞いが多く目立つ。

 例えば、傍若無人な獅子雄にいら立つ若宮に「普通の我々はああいう人間を利用すればいいんだよ」とあっけらかんと言ってのけ、開き直った態度を見せる。江藤は原作のレストレード警部にあたるキャラクターで、事件に行き詰まるとホームズに手助けを求めるところや、実際の捜査や事件解決はホームズによるものなのに、世間的にはその手柄は警部のものになってしまうところなど、その人物像や背景が踏襲されている。

 しかし、原作のレストレード警部がそうであるように、江藤も決して無能というわけではない。天才的な才能を持つ獅子雄と比べてしまうと、捜査能力や勘の働き方などでは劣ってしまうが、いざとなったときの行動力や、刑事としての情熱や誇りを確かに持っている。だからこそ獅子雄も彼を信頼した上で捜査に乗り出すことができているのだ。

 そうした江藤の側面が非常によく出ていた印象的なシーンがある。第5話で、息子を失った悲しみから復讐心で犯罪に手を染めてしまった母親(若村麻由美)に、真相がすべて明らかになった後で江藤が「もう、泣いてもいいんじゃないですか」と温かい言葉を向けたのだ。表面的な軽いノリの奥にある江藤の優しさ、深みのある人間性が伝わってくる場面だった。

 江藤が魅力的なキャラクター像になっているのは、佐々木蔵之介が生き生きと演じていることが一番の要因だ。佐々木のこれまでの出演作を振り返ると、渋めの落ち着いた役が多い印象だ。今回と同じ刑事役といえばTBS系で2009年から2013年に放送された主演ドラマ『ハンチョウ〜警視庁安積班〜』シリーズが思い起こされる。とはいえ『ハンチョウ』シリーズでは部下たちからの信頼も厚い仕事熱心な熱血刑事だったため、軽薄でコミカルな面が前面に押し出されている江藤とはだいぶイメージが違う。

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