『マチネの終わりに』石田ゆり子、3か国語操る声の美しさ キャリアとともに厚みを増す魅力とは
“誰かに救い出してほしい“と、必死で自分で自分の肩を抱きかかえているときに、あのうっとりするような蒔野のギターの音色が、そしてしっとりと優しい洋子の声が聴こえてくるのだから、恋する理由は十分だ。
そう、この作品には、福山雅治の弾くギター音に加えて、石田ゆり子の声という音が心地よく響く。本作で石田はフランス語、英語、日本語を器用に使い分けるのだが、フランス語の会話はメレンゲのように軽やかで、婚約者に意見するときの英語は赤ワインのように艶っぽく、そして日本語では可愛らしい長崎弁も披露する。ギターの音色と同じく、言語やシチュエーションに応じて声色が美しく変化するのが、聞いていて楽しい。
か弱く見えて芯が強く、少女のようであって大人の落ち着きがあり、泣いているように笑い、悲しむように怒る……彼女の見せる感情はいつも単音ではないのも、この映画を見ていて改めて感じられた部分。人の気持ちはいつだって複雑で、いくつもの想いが重なる。
大人になれば、その隠し方も上手になるし、見せないようにするうちに、どれが自分の本音かわからなくなることもある。そして、いつしか暗闇の静寂の中で、ひとり佇んでいるような気持ちにもなる。だが、そのやるせない気持ちをただ嘆くのではなく、噛み締めて強く生きようとする姿を演じるのが石田ゆり子は抜群にうまい。それが石田ゆり子が年齢を重ねるほどに人気を得ているヒミツではないか。