『第三夫人と髪飾り』監督が語る、ショッキングな題材にある普遍性 「21世紀の今も起きている」

 「『あなたが1人じゃない』ということが伝えられれば」

ーー本作では、19世紀の北ベトナムを舞台に男性社会で抑圧されている女性たちの姿が描かれています。現在においても、女性への抑圧はあると感じますか?

メイフェア:残念なことに、いまだに存在していることです。若い女の子がお見合いで強制的に結婚させられるケースは今でも多くあります。この映画は17以上の映画祭で上映されたんですが、必ず女性の観客が話しかけてきてくれて。「私も同じことを経験しました」「私の母が第三夫人でした」、あるいは「私のおばあちゃんが無理やり親に結婚させられました」と言うんですね。この映画は19世紀の話ですが、21世紀の今も起きているんです。映画業界を見ても、明らかに女性監督が少ないですよね。これも悲劇だと思います。女性視点で語られるべきストーリーがたくさんありますが、実際には語られていない。

ーー一方、#MeToo運動やフェミニズムが盛り上がり、性差を無くす動きも徐々に起きています。

メイフェア:非常にポジティブなことだと考えています。この映画を編集しているときフランスにいたんですが、#MeToo運動があっという間に広がっていくのをダイレクトに感じました。まだまだやるべきことはあると思うんです。映画業界に限らず、色んな場所で女性がもっと前に出て行くべき、対等に扱われるべきです。未だに、母であることと仕事をすることを選ばなければいけないということがありますが、この映画、そして自分の人生がそういった人たちの力になれば嬉しいです。

ーー本作からは、緊張感を維持しながらも、風景がとても美しくリラックスさせる効果もあるように思います。この、緊張感とリラックスした要素という対比は意識的でしたか?

メイフェア:面白いことに、見た人の反応が、怖かったという人と、風景が美しくてうっとりしたという人の2つに極端に分かれるんです。緊張感は意識していました。登場人物たちが感じている恐怖や苦しみというものは非常に大きいと思うんです。特に主人公は、感情的な意味でも肉体的な意味でも非常に大きなチャレンジをする。恐怖や痛みというものは、みんなが共感できるもの、普遍的に人間に備わったものだと私は考えています。一方で、恋に落ちるといったポジティブな感情も、この映画を通じて描かれています。そういった、それぞれの要素が散りばめられて配置されていると言えます。

ーー日本の鑑賞者へのメッセージを。

メイフェア:私の長編1作目が日本で劇場公開されることを本当に感謝しています。日本というのは本当に素晴らしい小説家、アーティスト、映画監督たちが生まれた場所です。昨日、東京の街を歩いたんですが、ここを村上春樹が、谷崎潤一郎が、川端康成が歩いた道なんだと思いながら、本屋やカフェを眺めて、とても謙虚な気持ちになりました。この映画は、おそらくみんなが持っている感情を描いていますし、私のメッセージはとてもシンプルで、「人はあなたの声を聞いている」ということです。私のようなアーティストが今までの女性の苦労、歴史的な抑圧を描こうとしているから、あなたが1人じゃないということが伝えられればと思います。

(取材・文・写真=島田怜於)

■公開情報
『第三夫人と髪飾り』
Bunkamuraル・シネマほか全国公開中
監督:アッシュ・メイフェア
撮影:チャナーナン・チョートルンロート
アーティスティック・アドバイザー:トラン・アン・ユン
出演:トラン・ヌー・イェン・ケー 、グエン・フオン・チャー・ミー、マイ・トゥー・フオン(Maya)、グエン・ニュー・クイン
配給:クレストインターナショナル
2018年/ベトナム/96分/DCP/カラー/字幕翻訳:原田りえ/R15
(c)copyright Mayfair Pictures.
公式サイト:http://crest-inter.co.jp/daisanfujin

関連記事