『セミオトコ』インタビュー
岡田惠和が明かす、山田涼介がセミであることの意味 「『セミオトコ』は面白さ勝負の作品」
リアルとファンタジー
ーー現在、『セミオトコ』と同時期に岡田さんが脚本を書かれた『そして、生きる』がWOWOWで放送されています。この二作を同じ脚本家が書いていると知ったら、みなさんびっくりすると思うんですよね。『そして、生きる』は、映画に近い演出で、震災を背景にしたリアルな話ですよね。逆に『セミオトコ』はファンタジーで抽象度が高い話となっています。なぜ正反対の作品を岡田さんは書けるのでしょうか?
岡田:むしろ、その両方があることでバランスが取れているんだと思います。
ーー書くのはどちらが大変ですか?
岡田:それはもう『セミオトコ』の方が難しいです。おそらく、(打合せでの)プロデューサーの立ち位置が一番違うのだと思います。リアリティ・ベースの作品は個人の経験を根拠に、各シーンの台詞や登場人物の行動について話し合うことができるんですよ。対して『セミオトコ』は誰にもわからない作品を書いているので、自分でも時々頭がおかしくなってくる時があるんです。リアリティというリミッターを振り切っている面白さ勝負の作品で、例えば、木南(晴夏)さんが演じている由香もぶっ飛んだキャラクター。何でもありの話を限られた空間で書いているので、答えを探せないんですよ。
ーー岡田さんの作品は、昔からファンタジーとリアルの両輪で来ていますね。『南くんの恋人』や『イグアナの娘』を書いている時に 『若者のすべて』や『彼女たちの時代』(ともにフジテレビ系)といったリアルな作品を同時に書いていて。
岡田:その両方を90年代から書いていて、そこが自分の居場所かなぁと思っていました。ただ状況が変わってきていて、当時は真ん中に北川悦吏子さんみたいな人が書く恋愛ドラマがあったから、自分は両端で書いて、ど真ん中では勝負しないという立ち位置だったんですよ。
ーー『若者のすべて』や『彼女たちの時代』のような作品も、ど真ん中ではなかったということですか?
岡田:当時はリスキーな企画でしたね。「恋愛とかしないの?」って言われたり、「キラキラしてない」って怒られたりしたので(笑)。だから、自分は変わってないんですけど、周りがどんどん変わっていったのだと思います。
ーー最近はシリアスな社会派テイストのドラマが復活していますよね。『わたし、定時で帰ります』(TBS系)のような職場の労働問題を真面目に取り上げたリアルな作品に注目が集まっている。だから『そして、生きる』の方が、今はど真ん中だと思います。ただ、これは受け手の問題だと思うのですが、リアルな作品ほど、視聴者が現実との答え合わせみたいに見てしまう傾向が強まってると思うんですよ。どれだけ、リアルに作れるかの勝負みたいになっていて、それが個人的には少し息苦しいんですけど、そういう中に『セミオトコ』があると、すごく安心して嬉しくなります。
岡田:ツッコミようがないからね。そういう楽しさはあるんじゃないかなぁと思います。
ーー同時に実はこの二作(『セミオトコ』と『そして、生きる』)で描かれている人間のあり方は、そんなに離れてないとも思うんですよね。
岡田:以前、坂元(裕二)くんと「お互い、なんて地味な人たちの話を毎回書いてるんですかね」と話したことがあるんですよ。そういう意味では、ずっと「特別でない人達」を書いていて、『そして、生きる』も『セミオトコ』も『ひよっこ』も変わらないですね。
ーー由香も、行動は極端だけど、生きていく中でこういう不安は自分の中にもあるよなぁと思いました。
岡田:木南晴夏さんの名前は最初から候補に上がってましたね。山田くんが作品のファンタジーを背負っているのに対して、ドラマの世界と視聴者との橋渡しを1人で背負わなきゃいけない役で、彼女がこの世界を飲み込んでくれないとどうしようもない難しい役でしたが、うまくハマった感じがあります。木南さんとご一緒するのは『銭ゲバ』(日本テレビ系)、『スターマン・この星の恋』(フジテレビ系)に続いて三度目なんですけど、何をやっても嫌な感じにならない独特の好感度があるんですよ。あと、今回は長台詞が多いのですが、彼女の声は、聴いていて気持ちがいいなぁと思います。
ーーキャスティングにおいて、声は重要ですか?
岡田:声と滑舌は重要ですね。由香は勢いだけで演じちゃうとイラっとしちゃうんですよ。相手がいないところで喋って全部伝えないといけないし、言葉だけだから肉体的な声と滑舌が問われるので、ノリとか雰囲気だけではできない。かといって舞台の人が良いというわけでもなくて。
ーー映画とも舞台とも違う、ドラマならではのおもしろい芝居ってありますよね。他のアパートの住人の背景もだんだんわかってきて、目が離せません。
岡田:全員どこか潜っている人たちなんですよね。ヒロインもそうですが、潜っていた人たちの話と潜っていて最後に地上に出てきて輝く蝉の話が、うまく重なればと思って書いています。
ーーひきこもりの話を、蝉の一生に重ねているのかと思いました。
岡田:それはありますね。今回、北村有起哉さんはプロデューサーの服部(宣之)さんのキャスティングで僕は初めてだったんですが、『ちゅらさん』(NHK総合)で北村さんのお父さん(北村和夫)に書いた役(島田大心)と同じだと途中で気づいて。あの人もアパートに引きこもって音楽をずっと聴いている人だったんですよ。全く同じ役を書いているんだって、この間ふと思いましたね。
ーー個人的には、工場の先輩・桜木翔子を演じる佐藤仁美さんと木南さんのやりとりが好きです。
岡田:工場を書くと決めた時からブラックな職場を書くつもりはなかったので、そこは仁美さんに背負ってもらいましたね。僕も二人のやりとりは好きです。
ーー『彼女たちの時代』などの過去作で書いていたギスギスした労働現場の苦しさを、近年はあまり書かなくなりましたね。特に『ひよっこ』で決定的に書き方が変わったように思うのですが?
岡田:今の会社のリアルな感じを書くことにそんなに興味がないというか、ブラックな労働現場をリアルに描く作品がいっぱい出てきたから、自分は書かなくてもいいという気持ちになったのかもしれないですね。僕はどんな仕事の中にも妙なプライドや喜びやこだわりや達成感があると思うんですよ。「妙な」と言うと変ですけど、そういうことを書きたいという気持ちになっていたのかもしれないですね。